読書会　～語ろう、あなたの一冊を～｜リアクション

読書会　～語ろう、あなたの一冊を～

【９番手　森蓮　経済と価値観】

「こんにちは、森といいます。私は今日、名下鉄郎『民衆経済』という本を持ってきました」
　礼儀正しく挨拶したのは森蓮。
　日々、勉強中の彼が持ってきたのは、どうやら経済書のようだ。
「一言で言うと、講と呼ばれる様々な相互扶助組織の歴史について述べた本です」
　そういって、お茶を一口飲んで続ける。
「公正で質素な人も、病気や火事、洪水など予期しない災難で、緊急の出費が必要になることがあります。そういった悲惨な状況に備え、たとえば村全体が協力して、各人から少額の掛金を集めれば、個人では用意できない金額が集まります。将来の不幸に備えた保険や共済ですね」
　そういう保険とかは、確かにある意味では互助である。
　ついでに、周りはやや置いて行かれている。
　立て続けにしゃべる蓮に、どうしたものかと考えているのだろう。
「明治になると、政府は講に競争的資本主義を導入し、協同信用貸付組織に改編しようとしました。講の組織員は、弱者救済をめざす相互扶助を基本思想としていたため、優勝劣敗を掲げる社会ダーウィン主義の政府官僚に支配されることは受け入れられませんでした」
ひょっとしたら、自分の祖父は知ってる話であろうか？
誰かがそう思ったところに、さらに蓮はしゃべり続ける。
「講は無尽会社や相互銀行と名を変え、相互扶助の伝統は戦後の社会でも存続しました
資金面でも生活面でも戦後復興を支えたそうです」
　諸説色々あるが、この本ではそう書かれているらしい。
「経済について学ぼうとしたきっかけは、政治経済の授業でペットボトルを高く売るという課題したからですね。私は善行をなした満足はお金よりも価値という考えから、無償で渡すと答えましたが、成績は可でした。一方的な慈善よりも相互扶助が望ましいということかもしれません」
　そういって、蓮は締めくくった。
「……なんというか、熱弁だったな」
　修がそう言って、蓮に話しかける。
　なにやら、難しい話になりそうなところで、次の人の番となった。