読書会　～語ろう、あなたの一冊を～｜リアクション

読書会　～語ろう、あなたの一冊を～

【５番手　仙藤紫　構造世界と戯れる楽しさ】

「私が紹介するのは麦垣手穂著の『一千一猫物語』よ」
　ゆっくりと落ち着いた雰囲気から、感じられるイメージ通りの落ち着いた言葉が紡ぎ出る。
　そんな紫が紹介した書名を聞いたとき、文学に心当たりがあるものなら、あぁと頷いたであろう。あるいは、少年愛の愛好家なら一度は聞いたことがあるであろう名前であった。
「短編集……のようですね？」
　ぱらぱらと蓮がページをめくる。
　何人かにそのまま手渡されて軽い回し読みが始まる。
「その本の内容は、ほんの数行の断片的物語が連なって、独特の世界を作っているというのが特徴よ。言葉と風景の折り重なり、キャラクターの行動そういうものが幾重にも紡がれることで、幻想的な世界を織り上げているわ」
　その言葉になるほど、と声が漏れる。
「一つ一つの言葉が丁寧ですよ！」
　玄もまた、そういう世界に引き込まれていく。
「えぇ、言葉も素敵よ。作品で使われている言葉は一つ一つがどれも素敵で、詩的な繊細さとクリスタルのような質感を伴った幻想的な世界に惹かれるわ。非常に透き通るように繊細になるように磨かれていて、しっかりとした硬さがある言葉よ」
「そういう言葉に触れていると、どこか気持ちが楽になりそうだ」
　その十字の言葉に紫は頷く。
「そうね、例えば……気持ちがささくれた時に、何か綺麗なものに触れたい時に、心をどこか遠くへ羽ばたかせたい時に読んでほしいと思います。今もそうだけど、ぱっと適当なページを開いて、そこに飛び込んできた詩編の様な短い物語に慈しむように読むと、星と猫とお星様のいる夜空に自分も遊んでいるような感覚になって、嫌なことなんて忘れてしまえるわ」
　紫はそう一気に言うと、一口お茶を飲む。
　ほぅとお茶を飲んで息をつく姿は、なんとも大人な雰囲気を醸し出している。
　だが、どこかその姿は夢を見る少女のようにも見える。
「そういえば、この本を読むきっかけって何でしょう？」
　アリシアのその質問に紫は答える。
「あれは確か……。高校１年の夏休みの登校日に、図書室へ入って適当に本を探したら、偶然目についた本のタイトルに惹きつけられたのが、この本との出会いなの」
『一千一猫物語』たしかに、人によっては引きつけられるタイトルだ。
「この本の言葉の世界には何度も救われたわ。特に辛かったり、悲しい時にはね。……キラキラとした言葉と戯れているうちに、悩んでいることが小さく感じてしまうから」
　どれほどこの本に救われてきたのだろうか。
　その紫の想いのこもった言葉には、どこか子供でもない大人でもないまぜこぜな感情がある。
　こうして、どこかふわふわした空気のまま、読書会は次へと移る。