読書会　～語ろう、あなたの一冊を～｜リアクション

読書会　～語ろう、あなたの一冊を～

【４番手　桜庭円　寝子島書房は役に立つ本です】

「今日は、寝子島書房の本を紹介したいと思います！」
　元気よく立ち上がって、宣言するのは桜庭円。
　彼女は、自らの愛読する寝子島書房が発行している本を持ってきたのだ。
「寝子島書房……」
「そこらへんの与太話からプロ級の実用レベルの話まで集めた謎の知識を狂ったように出版しているという……あの」
　八神修がまたあの本かとやれやれとつぶやき。
　紫が口にしたのは、ある意味それなりに知るものの認知している常識だ。
　なんとも業の深い出版社である。
　ちなみに、一部の熱狂的な読者（ファン）によってこの出版社は維持されていると言っても良い。
　そんなファンの一人である円はある本を取り出した。
「一般的にはなじみが薄い寝子島書房の本だけれども、今回はそんななじみのない入門者の方にお勧めする『きっと、必ず、若しかしたら役に立つ』シリーズって言うのがあってね。今回はそのシリーズの中から一般向けを選んで来ました！　その名も！　『就職にも役に立つ拳、肉体言語』！」
「まて、色々と待て！　肉体言語って言葉じゃねーだろ！　いや、それ絶対に違う何かを飛ばしてるよね！」
　刀が突っ込みを入れようとするが、どこから突っ込んで良いのか分からない。
　そもそも就職と肉体言語となんのつながりがあるのか刀には理解できなかった。
「肉体言語検定もあって、毎年試験やってるって噂だし！　アピールポイントにもなるよ！」
「どこでやってるんだ、それ……」
　円の言葉に、修が突っ込みを入れる。
「ある程度の達人になると、ピンと来てそこへ行くと受けれるらしい」
　らしい。
「完全に、与太話の領域ね……」
美野梨が疲れたように言う。
だが、円の攻勢はそれで終わらない。
「これを買うために、ある古書店の店主と拳を合わせたのもいい思い出です。お爺ちゃんにしては、軽快なフットワークで、3度目の手合せで譲って貰えました。いつかうちに就職しにおいでという言葉ももらいました」
「ほんとに、そうなるんだすごいね！」
　無邪気に感動する咲耶に、一同は少し空気がほわっとするのを感じた。
「本で一番感動したのは、『拳に憎しみを乗せてはいけない、思いを伝える事よりも、相手の非言語、肉体言語を五感で感じ、相手の気持ちを受け取る事が重要なのだ』という言葉が心に残ったよ」
「殴られてるよね、それ……」
　十字が思わずそう言ってしまう。
「しかし、何かしら共感を感じ、相手と気持ちが通じ合うことは良いことです」
　だが、蓮は少し違う印象を受けたようだ。
「だが、問題点がある。それは、肉体言語が出来ない場合だ」
　そう、修は肉体言語が無理な人である。
「いや、そもそも大半の人が無理です」
　アリシアが訂正というか、修正を入れる。
「そんな人達の為に良い本がある」
　だが、にやりと円は笑うとさらに一冊の本を取り出した。
「『GANRIKI：眼で語る、これ一冊で世界を旅できる』これをマスターした後、肉体言語に行くのが望ましいと思います！」
　どやぁ！　とどや顔する円。
　ちなみに、円本人はすごくまじめに紹介しているつもりなのだ。
「なるほど、よく分かった。ありがとう。ところでそれだけ広い本の種類があるんだ、薬草とかの本もあるのかい？」
「ありますよー」
　庵が興味深そうに聞いて、そのまま円の発表は終わりとなった。
　なお、庵は『人体の神秘　～最良の投薬は最も危険な修行で身につける～』なるタイトルを聞いて、大いに首をかしげたのであった。