夢で会えたら｜リアクション

夢で会えたら

【１７】想いに触れて

　また嘘みたいなおまじないが流行っている――夢の噂を聞いた時の、夜乃理沙の第一印象は、それだった。
（信じてないけど、試してみよっかなぁ）
　ふとそう思ったのは、あまりに何度もその噂について聞くせいだったのかもしれない。
　ともあれ、彼女はその夜、母に会いたいと願ってその人の写真を枕の下に忍ばせた。

　気がつくと、理沙は寝子島神社の境内に立っていた。目の前には、会いたいと望んだ母がいる。
「お母さん……！　本当にお母さんなんだね……！？　会いたかった」
　駆け寄ってすがりつくと、母は優しく彼女を抱きしめた。
　その母に、彼女は尋ねる。
「どうして……あの時、僕なんか一人生かしたの……」
　それは、彼女が幼い時のこと。
　家族旅行に出かけた先で事故に遭い、彼女たちの乗った車は海に転落。両親は、彼女を助けるために、死亡した。
　病院で意識を取り戻した彼女は、もう父も母もいないのだと知った。
　あの時の深い絶望感は、今も忘れられない。
「辛かったし、苦しかったし、寂しかったんだよ……」
　母の顔を見上げ、そう訴えた。まるで、幼いころに戻ったように。
　その理沙を母はそっと抱きしめ、言った。
「一人にしてごめんね。でもね、私たちはあの時、命と引き換えにしてでも理沙を助けたかったの。理沙は私……そして、お父さんの希望だから」
「僕が、希望？」
「そうよ」
　問い返す理沙を、母は笑って見やる。
「理沙が今、元気で生きていてくれてよかったわ。……辛かったわよね。でも、楽しいこともあったでしょ？　私たちはね、理沙にそんな未来をあげたかったの。未来は、生きていなくちゃ、作れないものだから」
「お母さんってば……」
　優しい母の笑みと言葉に、理沙は目元が熱くなるのを感じた。目尻に涙が盛り上がり、あふれ出す。
　そんな彼女の髪を、幼子にするように撫でながら、母は笑った。
「誰でもいつか、別れの日は来るものよ。私たちは、それがちょっと早かっただけ。理沙、私たちのことは気にしないで。たまーに思い出してくれるぐらいで、充分よ。理沙は理沙らしく、強く生きてちょうだい」
「お母さん……」
　涙に濡れた顔を上げる理沙に、母は続ける。
「大好きよ、ずっと。幸せになってちょうだいね。それが、私の何よりもの幸せ」
「お母さん、ありがとう……」
　そんな母に、理沙は思わず言った。
　同時に、あたりが淡い光に包まれ、母の姿が見えなくなる。
（……夢が、終わる……）
　まぶしさに目を細めながら、理沙は思った。光は更に強くなり、何も見えなくなった。

　眠りから覚めた理沙は、あたりが明るくなっているのに気づいて、目をしばたたいた。
（噂……本当だったんだ……）
　見慣れた天井を見上げながら、夢の内容を思い出し、胸に呟く。
　その脳裏に、母の言葉がよみがえった。
（お母さん、僕、きっと幸せになるよ。……お母さんが、安心して笑っていられるように）
　胸の中で母に語りかけ、彼女は微笑む。
　その周囲には、明るい朝の光が満ちていた――。

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