季節はずれのきもだめし！　『日本ぞくぞくツアー』｜リアクション

季節はずれのきもだめし！　『日本ぞくぞくツアー』

【“こわい”の種類がちがう】

　御剣　刀は固唾をのんで本部のモニターを見つめていた。
『ぞくぞくツアー』本部テントに設置されたモニターには、きもだめしをしているペアが持つ小型カメラの映像が映るようになっているからだ。
「朱蘭、暗い中一人で先行すると危ないぞ」
「ん？　なんだよ竜也、こわいのか？」
「そんな訳あるか」
「あ、ちょっと、なんだよ！」
　黒滝　竜也のボソっとした言葉、酒浸　朱蘭の慌てたような声。モノクロの画面がゆさゆさ揺れる。端に
写っているのは二人のつながれた手のようだ。映像から察するに、懐中電灯を持っているのが竜也で、カメラを持っているのが朱蘭らしい。
「むむ」
　刀は画面を注視した。今のところ、危ない事態にはなっていないが、有事の際には全力でごまかさなくてはならない……！　と腹に力を入れる。
　刀以外の人間が知っているのかどうかは分からないが、九夜山には本物の妖怪がいるのだ。番組スタッフに見つかって、心霊スポットだと騒がれるような事態は、妖怪たちにとって望ましくないだろう。
「あ、あれは何だっ！」
「えっ？」
　刀の声とテントの外を差した指に、モニターを見ていた人間は皆つられる。
「すみません、幽霊かと思ったんですが、動物だったみたいです」
　モニターから白いキツネが姿を消したのを確認し、刀は他の人間に頭を下げた。
「あっ竜也、二つ目のチェックポイントだぞ！」
「だから、走るなって」
　映像の中の竜也と朱蘭にも気づかれなかったようだ。
　二人はチェックポイントに到達し、バッジをつけている。しかし、時おり写真をとる竜也が、なぜカメラを
向けた方向にお辞儀をするのか、刀は不思議に思った。
　――その謎が解けるまで、そう時間はかからなかったが。
「なぁ、竜也。さっきから写真とった後おじぎしてるけど、なんでだ？」
　落神神社でお参りをして、朱蘭が竜也に問う。
「何でって……こういう事すると『遊び』にくるって爺ちゃん婆ちゃんが話してくれたんだ。見えないからって『畏れ』を忘れてはいけないと」
「竜也……それって」
「もし写真に写ってたら、感謝したり、お騒がせしてすみませんと謝らな……どうした？　震えているのか？」
　突然。
　ガクンと画面が揺れ、ザザッとノイズが入る。朱蘭がカメラを落としたのだろうか。
「べ……別に、こここ、怖くなんてないんだぜぜ？」
「とにかく、少し休もう」
　朱蘭と竜也は落神神社で一休みすることにしたようだ。だが、声は聞こえてもカメラに映るのは二人の腰から下だけ。
「だーッ、もう素面なんかじゃやってられるかーッ！　竜也、お前も飲め！」
「や、やめろ！　どうして俺にろっこん水を……」
「あたしの水が飲めないってのか？」
　モニターいっぱいに映る、もつれあう二人の足元。台詞も何やら不穏である。ゴクリと刀は唾をのんだ。
（これ、まずいんじゃないか？　誤解を招きそうだ）
　ちらりと目をやると、春太郎を始めとする番組側の人間も、あんぐり口をあけて画面を見つめている。
「し、春太郎君、黒滝さんと酒浸さんの年齢、１５歳って名簿に書いてあるんだけど」
「素面じゃやってられない、って言ってましたね……」
「ま、まずいよ！　『ぞくぞくツアー』は小さい子も見ているのに！」
「僕、止めてきます！」
　春太郎は責任者らしき年配の男性と話した後、懐中電灯をひっつかんで飛び出した。ユキがリードをつけたまま、その背中を追いかける。

　――きもだめし半ばで連れ戻された竜也と朱蘭はペットボトルの中身を調べられたが、何をどう見ても水でしかなかったので、放免となった。

このページにイラストを設定する