かつて九夜山三夜湖の央には小島があり、城があった。
小舟によってのみ渡ることのかなうその城を、九夜山麓の村人たちはこう呼んだ――『八夜城』。
樹齢千年の桜に護られた八夜城を居城としていたのは、一帯を領土としていたとされる八ヶ淵氏。
青く美しい湖面に白い城が佇むその様は、まるで白猫が眠るようであったとされ、八夜城は別名を『眠り猫城』と呼ばれた。
桜咲き乱れる春の夜、眠り猫城を悲劇が襲う。
折しも城と支え合うようにして生える千年桜は満開、老いてなお空覆うほどに咲き乱れる花を愛でんと、城では年に一度の大宴会が開かれていた。
桜吹雪の中、酒樽は開かれ、武芸者たちが競い、旅芸人たちが唄い舞い、――一族郎党三百人余りの人々は、けれど一夜にしてその城ごと、千年桜ごと姿を消した。
地殻変動による地盤沈下とも不可思議の力による神隠しとも言われ、金鉱脈を擁していたとされる八ヶ淵氏の埋蔵金を探し、後年様々な調査の手が入るも、八夜城も八ヶ淵の埋蔵金も何一つとして発見には至っていない。
――『八ヶ淵埋蔵金』。
八ヶ淵氏の裔と称し、今も寝子島に居住する人々は、『八ヶ淵埋蔵金』に関する秘密を口伝にて受け継いでいるという。
――寝子島書房 『幻の八夜城』より抜粋
シーサイドタウンの海沿いの路地に、小さなスーパーマーケットがある。小さな駐車場の入り口の看板に描かれているのは、香箱を組んで座る白猫と『スーパー はちがぶち』の文字。
のどかな潮騒の音が寄せる昼下がりの駐車場の端、煙草の吸殻入れがあるだけの喫煙所のベンチに腰掛け、白衣にエプロン姿の老人がのんびりと日向ぼっこをしている。
「こんにちはなのですー」
「んがっ」
人気のない駐車場でこくりこくりとし始めていたところに、不意に幼い少女の声を聞き、スーパーの老店長はしわくちゃの顔に半ば埋もれた目を見開いた。
「おや、ゼロちゃん。こんにちは」
駐車場にまではみ出して置かれた日用品や野菜に隠れるようにして、白銀の長い髪をふわふわと揺らして佇む少女を見つけ、老店長はひらりと手を振る。時折ふらりと現れてはお菓子を買って行く、どこに住んでいるのかも分からない、親と一緒にいるところを見たこともない、どこかしら不思議な雰囲気を持つ
ゼロ・シーアールシーは、軽い足取りでベンチの前に立った。
隣にちょこんと腰を下ろすなり、
「猫の口元、川の始まりに桜の枝をさして、宝物を隠したと聞いたのです」
「……八ヶ淵の埋蔵金かね」
千年桜が満開の夜、あの不思議なお城の小さな姫君から聞いた言葉をそのまま伝える。途端、スーパーの老店長は片眉をはねあげた。
「これを貰ったのです」
純白のワンピースのポケットから、
姫君から手渡された金色の桜の花弁を取り出し示す。ほうほう、と八ヶ淵の姓を今も名乗る老人は大きく頷いた。
店先のマガジンラックに無造作に突っ込まれた無料タウン誌の中から、寝子島の地図が描かれたものを取り出し、エプロンのポケットから出した赤マジックで地図の一点に丸をする。
「行ってみなさい。その花弁を持っているのなら、桜は道を示すだろう」
「財宝があるのです?」
「財宝、財宝……そうだね、宝ではあるのだろうね」
銀色の瞳を瞬かせるゼロの頭を老いた手で愛おしむように撫で、老人は微笑んだ。
そうして、視線を店の前の道路を通りがかった
猫島 寝太郎へとのばす。
「猫島の御曹司さんもどうかね、今なら探索のお供に店のお弁当を三割引きでつけよう」
「え? 自分?」
不意に声を掛けられ、寝太郎は栗色の瞳を瞠った。手招きされるがままに近づき、九夜山に眠るという埋蔵金の伝説を聞かされる。
「え、ええー……」
ぽかぽかと暖かい春の休日の午後、晴天の霹靂のごとく八ヶ淵埋蔵金の話を聞かされ、無料タウン誌に赤マジックでマルをつけた宝の地図を渡され、寝太郎は頭を掻く。
そういえば昔、こういう話が大好きな父が
埋蔵金を求めて島中を歩き回ったという話を聞いたことはあったけれど――
「おやつもどうだい、スーパーはちがぶちオリジナルのさんま饅頭」
戸惑う寝太郎に対し、八ヶ淵老はにこにこと笑った。
こんにちは。阿瀬 春と申します。
今回は、八ヶ淵城埋蔵金のお話のお誘いに参りました。
埋蔵金。とてもロマンだと思うのです。
ガイドには、ゼロ・シーアールシーさんと猫島 寝太郎さんにご登場いただきました。ありがとうございました!
もしもご参加頂けます場合は、ガイドに関わらずご自由にアクションをお書きください。
寝子島時間の四月に出させて頂きましたシナリオ『桜の下で待ち合わせ』の『幻の八夜城』部分でちらっとだけ書いた『八ヶ淵埋蔵金』が今回の舞台となります。
場所は『猫の口元、川の始まり』にある桜の大樹の根元。
寝子島書房発刊『幻の八夜城』にも埋蔵金の在処は書かれていますし、それを読んで埋蔵金の場所を探し当てた! とかでも、ガイドにありますようにスーパーはちがぶちの店長から宝の地図(割引おやつとお弁当つき)を押し付けられた! とかでも、昔埋蔵金探した祖父や近所の爺婆から話を聞かされた! とかでも、宝さがしの理由はなんでも構いません。
宝さがしの日時も、いつでも大丈夫です。お宝は逃げません。休日の昼下がりでも平日の朝でも夜でも、いつでもどなたでもかもーん、です。
そういうわけで、埋蔵金探し、行ってみましょう!
『猫の口元、川の始まり』。要は天宵川の始まり、地図でいうとD-7の辺りに桜の大樹があります。今の時期はもう葉桜の頃ですね。
大樹の根元、ぽっかりと開いたウロの中には古びた小さなお地蔵さまの祠が安置されています。
ガイドの八ヶ淵老は『その花弁を持っているのなら、桜は道を示すだろう』とゼロさんの持つ『金色の桜の花弁』を見て言いましたが、実際のところ、花弁を持っていてもいなくともお地蔵さまの背後から地下に続く梯子は見つけることができます。持っていれば少しだけ探し出しやすくなるかな、くらいだとお思いください。
梯子の下からの路は二股に分かれています。どちらに行くかをお選びください。
右■(木材で補強された通路)
→穴だらけの障子に閉ざされた部屋
漆器やお椀、燭台等が散らばっています。天井に渡された梁からは干からびた魚や何かの毛皮、薬草の束等がぶら下がっています。
→襖に閉ざされた部屋
ぼろぼろの着物や人形等が転がる部屋があります。
土の上に古びた畳が何枚か敷かれています。ほとんど腐りはてたような黴だらけの布団、錆だらけの小刀も転がっているようです。
左■(岩肌が目立つ自然の洞穴)
→閂の掛けられた鉄と木の扉
奥にはいくつかの土饅頭が盛られています。つるつるの石を乗せた土饅頭ひとつひとつの前には、まだ色を残した花束が供えられています。
→重々しい木造戸
何体かの鎧兜が並んでいます。槍や薙刀が転がっていますがどれも錆びついて使い物にはならなさそうです。
扉に開いた隙間から覗くと、カタリ、鎧が動いたようにも見えました。兜の奥がキラリと光ったようにも。
分かれた通路は先でひとつになっています。果てには大きな空間がひとつと、外に続く扉がひとつ。
空間の真ん中にはひとが二三人は入れる大きさの古い葛籠が置かれています。葛籠の中にはいろんな年代の玩具がたくさん。
扉から外は、九夜山の中腹(D-6)あたりになっています。周辺を探索すれば、八ヶ淵一族が暮らした村落の跡が見つかったりするかもしれません。
――そんな感じな、ほとんど危険のない『宝さがし』です。寝子島に昔からお住まいの大人のPCさんは、もしかすると子供の頃に探検したことがあるかもしれません。
のんびりわくわくな春の九夜山探索、いかがですか。
みなさまのご参加、葛籠の底に隠れてお待ちしております。