男は再び、寝子島駅へと現れました。
年齢は30代後半くらい。真っ黒なスーツ、カラフルな開襟シャツ。小洒落たハット、薄く色の入った眼鏡。いくつものアンティークなアクセサリ。腕には赤い腕章。
きれいに整えられた髭に演出された口角が、に、と上がり、
「ああ、良く来てくれた。お前さんを待ってたんだ、さあこっちへ。さあ」
馴れ馴れしく
あなたの背に手を回し、切符も買わずに改札口を通ってホームへと導きながら、
新出府 譲(にいでっぷ じょう)は親しげに、そして芝居がかった口ぶりで話し始めます。
「まずはひとつ謝罪をさせてほしい、すまなかった! 先日の思わせぶりな態度に、君はこう思ったことだろう。『一体こいつは何なんだ?』『怪しいヤツだ!』……無理もない。そう、俺はアヤシイ、あえて否定はしないさ」
まるで台本をなぞるかのように、彼はぴっと一本指を立て、あなたの目を覗き込み、
「だがおかげで、
あの日は実に、有意義な時間を過ごせたよ。口うるさい連中からの評判も上々でね、今日はつまりその礼……と言っちゃあ何だが。こちらからもひとつ、
情報を差し上げたい。と、そういうわけでね」
前歯にはまった金歯がきらり、輝くのがやけに目に付きました。
無人のホームに立つと、彼は大げさに片眉を下げて、
「こいつを提供するのには、こちらとしても慎重にタイミングを計る必要があったわけだが……そう、タイミングだよ。だがそろそろ、出しちまっても構やしないだろう。それに、お前さんたちも大いに興味があるはずさ……無いかもしれんが、どちらにせよだ。楽しんでもらえるよう、心を砕いたつもりだよ」
彼の口から飛び出した名前と、彼の関連性を、あなたは類推したことがあったかもしれません。
「……『
ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』その案内役。謎めくストーリーテラー。彼女さ。『
胡乱路 秘子』の情報を、差し上げよう」
がたん、ごとん、と。ホームをかすかに揺らす音は、間もなくの電車の到着を告げるもの。
「そのために、お前さんにはこれから、とある場所へ行ってもらうことになる。そうだな、仮に『
某県某市』とでもしておこうか? そりゃあ楽しいところさ、住人は揃って愉快だし、話好きだし、友好的だ……中にはそうでないのもいるが、ま、それはいい」
がたごと、がたがた。その揺れが尋常のものでないことは、すぐにも分かりました。
遠くに見える寝子電のヘッドライトが、凄まじいスピードでこちらへと近づいて来ます。
「ああ! 分かってる。言いたいことは分かる、だが回りくどいヤツだと思わないでくれよ? こいつは必要なプロセスなんだ。昨今はネットだなんだと値崩れが著しいが、それでも情報は貴重だ。分かるだろう?」
ばたばたとホームを通り抜け始めた豪風に、彼は吹き飛びそうなハットを片手で押さえながら、
「ちょっとした遠出になるが、なに、心配するこたあない。足はきちんと用意してある。抜かりは無いさ、もちろんだとも!」
突風を纏いホームへ走り込んできた電車が、レールと車輪が擦れるけたたましい軋みを上げながら急ブレーキをかけ、もうもうたる粉塵を巻き上げ、やがてぴたりと目の前へ止まりました。
「何と言ったかな、えー……なんだ。あー。そうだ、『
偽でん』だ。こいつに乗ってくれ。お前さんたちを目的地へと送り届けてくれる……運転手が居眠りでもしなきゃだが」
ぽっかりと開いた乗車口から中を覗けば……乗客はまばら。いずれも眠そうにぱちくりと無機質な瞳をしばたかせる、数匹の
レンズ・キャッツのみ。
「さあ、乗ってくれ。乗り込んで、少し眠るといい。目が覚めた時には…………良い画を期待してるよ。楽しんでくれ」
ぱちり、とあなたは目を開きます。
導かれるように電車を下り、改札をくぐってぼろぼろの木造駅舎を出れば、目の前に佇む町はどこもかしこもぼんやりと、昼間にも関わらず、
黒い霞のような陰鬱な暗がりに沈んでいて。ほこりっぽく、淀んだ空気が鼻をつき。
陰鬱そうに背を丸めて歩くのは、真っ黒に……まるで油性のフェルトペンでぐじぐじと塗りつぶされたような、
顔の無い住人たち。
足元にすり寄るレンズ・キャッツが、促すように、にゃあとひとつ鳴きました。
さあ、行こう? そう、囁くように。
墨谷幽です、よろしくお願いいたします~。
いわば続きものではありますけれど、MFS!や前回シナリオをご存じなくとも、初めての方でもご参加いただける要素もありますので、お気軽にいらしていただけましたら幸いですっ。
今回のシナリオの概要
今回は、『ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』にまつわる謎、その解決編の第二弾、といったシナリオになります。
あなたが気が付くと、そこは影に覆われた見知らぬ町。都会からは少しばかり離れているようで、どこか停滞感があり活気に乏しい田舎町、といったところです。
顔を真っ黒に塗りつぶされたような奇妙な住人たちが闊歩し、どこからかひそひそと囁くような声、あるいは遠く獣のような唸り声が届く、不気味で陰鬱な場所ですが、新出府 譲いわく、ここはMFS!の案内役、謎多き胡乱路 秘子に縁のある町なのだとか。
何にしろ、彼が言うような楽しい場所では無いのは確かです。
実は、町には陰湿そうな住人たちに加えて、とある危険な存在があちこちをうろついています。『ひとさらい』とでも呼ぶべき彼らに見つかると、執拗に追いかけられ、捕まればどこかへ連れ去られてしまうでしょう。
今回のシナリオの目的は、大まかにふたつ。
ひとつには、町を探索したり、住人に話を聞いたりすることで、胡乱路 秘子に関する情報を収集すること。彼女について、何かしら分かることがあるかもしれません。
もうひとつには、あんまりそういうのは興味ないかな? という方のために、単純に不気味な町で怖い目にあってみたり、ホラー的要素を楽しんでいただくことです。
きっかけは、新出府と以前に知り合っていて呼ばれたとか、たまたま居合わせた、何の関わりも無いのに気付いたら町にいたとか、何でも構いませんので。
お好きな形でご参加をいただけましたら!
アクションでできること
アクションでは、以下の3つの区域の中から訪れる場所を1つを選んでいただいた上で、重点的に行いたい行動をお書きください。
【1】北区
小高い山際の、自然が多い一角。
ふもとに小学校や中学校、図書館など。山の中腹には墓地、何かの廃墟などがあります。
【2】中央区
町の中心。
中央にはこじんまりとして寂れたアーケード街、その周囲には多数の背が低い古民家があります。
【3】南区
いちおうの商業地域。
町唯一のスーパーマーケット、コンビニ、小さな警察署や消防署などがあります。
行動は、例えば『○○な職業の人を見つけて話を聞く』、『××の場所を探索し、関連する何かを探す』、『町中を追いかけ回され逃げ惑う』など、考えられそうなものをご自由に指定していただいて構いません。
指定した場所や成り行きによっては、情報を引き出せたり、何らかのハプニングが起こる可能性もあります。
また、ありそうなら上記以外の場所を指定していただいても構いませんが、情報収集を行う場合、有力な話が聞けるかどうかは分かりません。
アクションには他に、
・参加に当たっての心情
(不思議大好きでノリノリ、疑念を抱きながら、不気味な町並みに怯えつつ、など)
・あれば独自の考察など
といったあたりもお書きいただければ。
『寝子島は撮影されている』とは?
謎の深夜番組、不可思議で不条理な出来事と、それに関わった人々の行動や、その顛末などが紹介される『ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』にまつわる謎に迫る、ドキュメンタリータッチの番組。だそうです。
全三回の放送が予定されており、今回はその第二回となります。
このシナリオ内で描写された出来事は、全て番組内で放送されたものであり、現実に起こったことかも知れませんし、現実には起きなかったことかも知れません。
このシナリオ内で、ご自身のPCが体験した出来事について、プレイヤーさんは実際に起きたこととして設定に組み込んでいただくことも出来ますし、番組上の演出や架空の出来事だったとしても構いません。
その他
●参加条件
特にありません。どなたでもご参加いただけます。
『ひと』、『もれいび』のいずれかも問いません。
●舞台
『某県某市』。昼夜問わずに、黒く霞のようなもやがかかっている、ぼんやりと曖昧で不気味な町。
とはいえ、その構造自体はどこにでもある普通の町並みで、多くの民家やひと通りの公共施設、様々な店などもあるようです。
この場所が『どこであるのか』には、さしたる意味はありません。この場所が『なんであるのか』には意味があるかもしれません。
なお、一定の時間が経過すると、参加者は寝子島へと帰還します。
●NPC
○顔の無い住人たち
町で生活する住民。子供から老人まで、学生や公務員や自営業などなど、普通の町と同じく多種多様な人々がいますが、いずれも塗りつぶされたような黒い影が顔にかかっていて、その表情をうかがうことはできません。
適切な相手に尋ねれば、胡乱路 秘子についての情報を聞き出すことができるかもしれません。
○『ひとさらい』
町中をうろつく危険な存在。やはり顔には黒い影がかかっており、表情は見えません。また、意志の疎通は難しいようです。
恐ろしい獣のような体格、手にはナイフ、嗅いだ人を昏倒させる薬品、拘束具などを持ち、PCを見つけると執拗に追いかけまわして捕獲しようとしてきます。
捕まると、とある場所へと連れ去られてしまいます。
○新出府 譲(にいでっぷ じょう)
MFS!を始め、様々な謎に連なる謎の男。名前はもちろん偽名。
腕に身に付けた腕章には、『D.F.R. - Direction systems of Freaky object Research -』
(ディレクション・システムズ・オブ・フリーキー・オブジェクト・リサーチ)と書かれています。
彼は今回同行しませんが、話したい方は寝子島へ帰ってきた後にその機会があるかも。
重ねて述べておきますと、彼は目立ちたがりで悪戯好きの嘘つきです。目的のためには、今回のような大掛かりな仕掛けを用意することも厭いません。
○胡乱路 秘子
謎のテレビ番組『ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』のストーリーテラーを自称する少女。
シナリオの性質上、恐らく頻繁に名前が出ることになりますが、今回本人の登場は基本的にはありません。
○レンズ・キャッツ
瞳がカメラ・レンズ、尻尾がアンテナ、ぞろりとした黒い毛並みの猫。
何となく皆さんに付いてきますが、特に気にしなくてもOK。ただ、事の成り行きを眺めているだけです。
●備考や注意点など
※本シナリオに関連性の無いNPC、及び今回のシナリオには参加していないPCに関するアクションは基本的に採用できかねますので、申し訳ありませんが、あらかじめご了承くださいませ。
以上になりますー。情報が多くてすみませんけれど、気負わずお気軽にご参加いただけましたら!
それでは皆様のご参加を、お待ちしております~!