「ここが寝子島、ね。いかにも風光明媚でございといった景観だが、さて」
その日、寝子島駅へと、
ひとりの男が下り立ちました。
派手な男です。年齢は恐らく、30代半ばか後半くらい。
真っ黒なスーツに、カラフルな開襟シャツ。オシャレなハットに、レンズへ薄く色を入れたウェリントン型の眼鏡。じゃらじゃらと身につけたアンティークなネックレスやアームレット、指にはいくつも光る銀色のリング。
栗色の髪はラフにふたつ分け、口元とあごには整えられた髭も。
男は、スマートフォンの画面を眺めながら大げさに眉間へ皺を寄せ、
「こんなことになってるとは、いやはや。こりゃあ、お偉いさんも重い腰を上げるわけだ」
まるで台本でも読むかのように、やけに芝居がかった調子で言ってから、ふと、
あなたに目を向けました。
「おっ! ちょうど良い。そこのお前さん、ひとつ尋ねたいんだが……構わないかい?」
ぴ、と立てた指一本。
男の腕に巻かれた赤い腕章には、何を意味したものか、『
D.F.R.』の黒い文字。
「ちょっとしたトラブルがあってね」
馴れ馴れしく歩み寄ってきた男は、片手をスーツのポケットに突っ込んだまま、聞いてもいないのに話し始めます。
「先日のことなんだが。とある機関の管理する倉庫へ、実に大胆なことに、大挙して
不法侵入を図った不届きな一団がいてね、ああ! そう警戒するなよ、犯人探しをしようってんじゃない。トラブルってのは、別のことさ」
男が掲げて見せたのは、スマートフォンの画面に呼び出した、一枚の写真です。
「その時に、誰かがカギを閉め忘れでもしたのか、倉庫に収められてる品物のひとつが逃げ出しちまったそうでね。こんなやつを見かけなかったかい?」
写っていたのは、猫でした。一匹の、
奇妙な猫。
ツヤの無い、ぞろりとした真っ黒な毛並み。尻尾の先には、何か……アンテナのようなものがひっついていて。
こちらを無機質に見つめ返す瞳は、眼球代わりのカメラ・レンズ。
「つまり厄介なことに、俺はどうやら島のどこかにいるらしいこいつを見つけて、その首根っこをひっ捕まえにゃならんらしい。と、そういうわけでね。ついでにこの島の現状についてもいくらか調べられれば上々だが、こいつはどうにも、人手が足りないな。さて」
と。
男はわざとらしく、ちらりとあなたへ視線を流して、
「実のところ、この素晴らしい島を訪れるのが、俺は初めてでね。なあ君、どこかに、右も左も分からない俺へ親切にも手を貸してくれるなんて奇特な、おっと。心根のお優しい誰かに心当たりは……無いもんかね?」
にっ。前歯にはまった金歯を、ニヒルな笑みと共に見せ付けました。
「うん? ああ、俺かい? そうか、そりゃあそうだな。人には呼び名ってものが必要か、さて。それじゃあ」
男はひとつうーんと唸って腕を組み、悩むようなそぶりをした後に、大いにもったいつけながらに、ようやく名乗りました。
「……譲だ。
新出府 譲(にいでっぷ じょう)。ジョニーとでも呼んでくれ、気さくにな」
墨谷幽です、よろしくお願いいたします~。
今回のシナリオの概要
今回のシナリオは、徐々に分かり始める『ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』にまつわる謎、その解決編の第一弾。といった感じです。
寝子島を訪れた、ひとりの男。彼は、とある倉庫から逃げ出した、『レンズ・キャッツ』と呼ばれる奇妙な猫を探しています。
また彼は、現在の寝子島には何らかの異変が起きているらしいと語り、それについての調査も並行して行うつもりのようです。
奇妙な猫の眼窩にはめ込まれたレンズを通して覗けば、島に進行しつつある、怪奇な現象を垣間見ることもできるでしょう。
シナリオの目的は、男の要請に応じ、協力して捜索や捕獲、調査を行うこと。
ご参加にあたっては、以前に『MFS!』等に関わったことがある方も、まったく知らないという方でも構いません。
面白そう! と自分から協力を申し出るのはもちろん、やや強引な彼に押し切られて無理やり協力させられることに、といった形でもOKです。
あるいはその見返りに、彼から、何かしら情報を引き出そうと試みるのも良いかもしれません……ただしご注意を、彼はどうやら、なかなかにクセのある人柄のようですから。
アクションでできること
今回のシナリオで行うことができる行動は主に、『レンズ・キャッツ』の捕獲と、寝子島の異変の調査。あるいは、情報収集です。
なお『レンズ・キャッツ』とは、以前にシナリオ『ミッドナイト・フリーキー・ツアーズ!』にて登場した奇妙な猫で、概ね以下のような特徴を持ちます。
・ツヤの無い真っ黒な毛並み。
・眼球にあたる部位に、カメラのレンズのようなものがはめ込まれている。
・尻尾の先に、電波送信用のアンテナがくっついている。
・レンズで撮影した映像を、アンテナでどこかへ送信する性質を持つと思われるも、詳細は不明。
・いわゆる光学迷彩のような能力を持ち、誰かに見られていると姿を消してしまう。
また、こちらの映像からもその姿を確認することができます。
なお、その中で判明した特徴として、以下のような点が挙げられます。
・誰かに触れられている間は、消えることができない。
・スマートフォンや携帯電話でワンセグを視聴している際、レンズ・キャッツが近くにいると、
レンズから見た映像が画面に映り込む。
・上記のような特徴を除けば、その他の習性などは通常の猫と変わりない。
行動は、以下の3つの中から1~2つを選び、アクションに記載してください。
ちなみに今回は、ワンセグ受信機能を備えた携帯電話、スマートフォンの類をお持ちの場合、それらが非常に役に立ちそうです。ぜひ活用してみてください。
【1】『レンズ・キャッツ』を探す
寝子島のどこかにいるという『レンズ・キャッツ』を探して、可能なら捕獲します。方法は自由です。
依頼者である男が言うには、以下のような場所に潜んでいる可能性が高いのでは? とのこと。
<探索場所の候補>
○旧市街の『参道商店街』
○シーサイドタウンの水族館『寝子島マリンパラダイス』
○星ヶ丘の海上商業施設『イソラ・ガレッジャンテ』に付属するヨットハーバー
※なお、実は『レンズ・キャッツ』は逃げ出したという一匹だけでなく、島中の至るところにたくさんいたりします。探してみればそのへんでも見つかるかもしれませんが、目的の一匹であるかどうかは分かりません。
片っ端から捕まえてみるのもよし、または捕獲そっちのけで彼らと触れ合ったり遊んだり、捕まえようとしてもひたすらに翻弄されたり、といったアクションでもOKです。
【2】寝子島の異変を調査する
依頼者である男は、寝子島において何らかの異変が進行中であると考えているようです。
詳細は不明ながら、例えば以下のような場所、物について、何か変わったことは無いか調べて欲しい、とのこと。
<主な調査対象>
○寝子電の車両
○ネコジマスクエア(シーサイドタウンの駅前広場)周辺
○エノコロ岬灯台
など。その他の場所でも構いません。
これらを普通に眺めても、一見、特に変化は無いように見えますが……さて。
【3】『新出府 譲』と会話する
寝子島駅前で優雅に煙草をふかしながら報告を待つ依頼人、『新出府 譲』に話しかけることができます。
雑談、質問、何でも構いません。会話の内容によっては、彼の持つ何らかの情報を引き出すこともできるかもしれません。
彼は少なくとも表面的には、皆さんに対して好意的です。また、島で起こる諸々の事象に興味を抱いているように見えます。
アクションには他に、
・参加に当たっての心情
(不思議大好きでノリノリ、疑念を抱きながら、など)
・独自の考察などあれば
と、いったあたりもお書きいただければ。
『寝子島は撮影されている』とは?
謎の深夜番組、不可思議で不条理な出来事と、それに関わった人々の行動や、その顛末などが紹介される『ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』にまつわる謎に迫る、ドキュメンタリータッチの番組。だそうです。
全三回の放送が予定されています。
このシナリオ内で描写された出来事は、現実に起こったことかも知れませんし、あくまで番組内でのことであり、現実には起きなかったことかも知れません。
このシナリオ内で、ご自身のPCが体験した出来事について、プレイヤーさんは実際に起きたこととして設定に組み込んでいただくことも出来ますし、番組上の演出や架空の出来事だったとしても構いません。
その他
●参加条件
特にありません。どなたでもご参加いただけます。
『ひと』、『もれいび』のいずれかも問いません。
●舞台
寝子島のほぼ全域が舞台となります。
時刻は昼間。お天気は晴れです。
●NPC
○新出府 譲(にいでっぷ じょう)
寝子島にやってきた男。
腕に身に付けた腕章には、『D.F.R. - Direction systems of Freaky object Research -』
(ディレクション・システムズ・オブ・フリーキー・オブジェクト・リサーチ)と書かれています。
ちなみに彼は目立ちたがりで悪戯好きの嘘つきなので、接する際には注意が必要です。
●備考や注意点など
※本シナリオに関連性の無いNPC、及び今回のシナリオには参加していないPCに関するアクションは基本的に採用できかねますので、申し訳ありませんが、あらかじめご了承くださいませ。
以上になりますー。
それでは皆様のご参加を、お待ちしております~!