怪人セブンの暗躍｜リアクション

怪人セブンの暗躍

【12：00前後　シーサイドタウン】

　畑中華菜子は旧市街に20年前から店を構えるラーメン屋『猫島軒』のひとり娘である。
　休日は店の手伝いをするほどラーメンをこよなく愛している。
　語尾に『～アル』とエセ中国人口調を好んで使うほどラーメンが好きなのだ。
「今日はなんだか外が賑やかアル」
　寝子島は観光地ゆえ、休日になると一通りは多くなるのだが今日は一層多い。
　時刻はもうじき正午。
　店内は常連客の数名のみで、まだピークには程遠い。
　そしていつものランチタイムのピークまで時間がある。
「こういう時こそ、お客さんを呼び込みしてくるアル！」
　商売熱心な畑中は店を飛び出し、早速、近くの大通りでチラシを配り始めた。
「猫島軒アルよー、美味しいラーメンを食べるアル！」
　畑中の元気な呼び込みでチラシを受け取る人は多けれど、なかなか集客へ繋がらない。
「めげないアル！　まだまだこれからアル！」
　時刻を確認しようとして、エプロンのポケットに入れておいたスマホを取り出した。
　すると、液晶画面の中にねこったーアプリの着信通知が表示されていた。
　畑中はおもむろにタップすると、そこには目を疑うような呟きが流れていた。
『寝子島にアイドル来たあああああ！』
『今、みさリンが図書館から出てきた！』
『あいつら誰？　ファンの許可なく同伴してるけど？』
『寝子島の街を案内するガイド役だってさ。町役場の腕章付いてるし』
『さっき壺職人たちが町役場前で暴れたから護衛付いたんじゃね？ｗｗｗｗ』
『まじか、壺職人はやっぱりクズゴミ犯罪者集団だな……』
　畑中は瞬時に頭の中でイメージした。
（有名なアイドルさんがせっかく寝子島に来てくれたんだから、美味しいものを食べて帰ってもらいたいアル）
　そこからはじき出されるイメージの連鎖。
　アイドルが猫島軒でラーメンを食べる。
　そこで美味しいと言ってブログにアップ。
　ブログから伝播して猫島軒の知名度が広がれば連日大繁盛間違いなし！
　その壺職人と呼ばれるファンの人たちもラーメンを食べれば優しくなって暴れまわるなんてしなくなる！
「完璧アル。ラーメンに不可能はないアル……！」
　畑中の自信の根拠には全てラーメンが根付いているのだ。
「そうと決まったら呼び込みある。うちの店でラーメン食べてくれるといいなぁ」
　目的は定まった。
　だが方法が皆目見当つかない。
　ねこったーで宣伝してみるか、そう考えた矢先のことだった。
　相互フォローしている吉祥寺黒子のアカウントから、願ってもみない助け舟的つぶやきが流れてきた。

黒闇天『どこか美味い飯屋ある？』

　畑中は集中した。
　それは人間の能力の限界を超える指先の動きだった。
　返信アイコンをタップ、両手の親指がプログラムされた工業用ロボットのように精密かつ高速に液晶画面の上で踊る。
　ひらがな入力された文字が目まぐるしく漢字変換されていき、次の瞬間には送信ボタンを押していた。
　この間、わずか２秒に満たない時間である。
　
『先輩！　私のことを忘れないでほしいアル！　猫島軒は今日も元気に営業中アルよ！』

　畑中の返信が親記事の下に真っ先にぶら下がる。
　ハヤイ！　検索に手間取っている他のファンの書き込み速度を凌駕した！
　ようやく記事を見たファンたちの返信がぞろぞろぶら下がり始めた頃、吉祥寺は畑中にダイレクトメッセージを送ってきた。
『はえーよ畑中（驚愕）　んじゃ、このままタイムライン上では無言のまま猫島軒へお邪魔させてもらうぜ？　俺が迂闊に返信するとアカウントが炎上しかねねぇし、畑中ン家に大勢の壺職人が詰めかけたらパニックになるからな！』
　メッセージを見た畑中は思った。
「吉祥寺先輩はやっぱりイイ人アル。……こうしてはいられないアル。店に戻ってアイドルさんをで迎える準備するアル！」
　畑中は慌てて猫島軒に戻ると、両親に事情を手早く説明。
　畑中一家は総出で出迎え準備に追われることになる。