いざ行かん、買い物日和！｜リアクション

いざ行かん、買い物日和！

　本屋にて。ライトノベルの新刊コーナーを一通りチェックし終えて、
（いろいろ新刊が出てるなあ……あっ、そういえば、雑誌も新しいのが出てるんだっけ）
　と、購入予定の漫画本を２冊手にした佐藤英二は、雑誌コーナーへ向かわんと身を翻した。
　ちなみに、目当ての雑誌は特撮系だ。
（今月号は鬼面タイガーシリーズ最新作のポスターが付いてくるんだよな。インタビューは……って、あれ？）
　特撮系の雑誌を扱う場所へと向かう途中、英二は、見知った顔を見かけてはたと立ち止まった。
　少女漫画雑誌を夢中で立ち読みしている彼女は、野々ののこ。
　その輝く横顔を目に、英二は瞬時に決意した。
　よし、声をかけてみよう！　と。
「こんにちは、野々さん」
　名前を呼ばれたののこが、ぱっと英二の方へと顔を向け、きししっと笑った。
「お、英二くん！　奇遇ですなぁ♪」
「何を読んでたの？」
「んっとねぇ、ほら、これこれ！」
　ののこが、読んでいた雑誌の表紙を英二へと示してみせる。
「ほら、この漫画！　青春！　って感じで面白いんだ～。で、ここだけの話だけど……」
　そこまで言って、ののこは声を潜めると、英二の耳元へと秘密めいて囁いた。
「立ち読みっていうのも、何だかちょっと青春っぽいよね」
　あ、ちゃんと後で買うんだけど！　と、ののこがにぱっと表情を華やがせるのに、
（こういう時間、何だか嬉しいな……）
　なんて、英二はそっと胸の奥をあたためる。
「えっと、その雑誌を立ち読みしてから買う、っていうのが今日の用事？」
「んー、本屋を楽しむ、っていうのが用事かな？　本屋って、わくわくがいっぱいなんだもん♪」
　どうやら、これといった目的があるのではないらしい。と、その時、
「ね、英二くんは何を……あ！　それ、漫画だよね？」
　と、ののこが英二が手にしている漫画に気付いた。
　ああ、と、ののこへと購入予定の漫画を手渡す英二。
「これは……『希望戦士ニャンダムＯＲＩＪＩＮ』？」
「の、アニメの前日譚に当たる外伝漫画。渋くって、結構いい感じだよ」
「面白そうだねぇ。……わ、こっちはゴアラだ！」
「うん、『ゴアラ怪獣遊星』。アニメ映画版のコミカライズなんだ」
「迫力ありそ～」
「そりゃもう、バッチリだよ！　……あ、野々さん、こういうの読む？」
　問えば、ののこの瞳がぴかっと星の如くに輝いた。
「うんっ、読む読む！　読みたーい！」
「じゃあ、読み終わったら貸そうか？」
「わーい！　やったぁ♪」
　その場で飛び跳ねんばかりに、ののこがうきうきと声を弾ませる。
　その様子に目元を和らげて、英二は「そうだ」と思いつきを口にした。
「今から特撮系の雑誌を見に行くんだけど、一緒にどう？」
「特撮系の雑誌……って、何が載ってるの？」
「鬼面タイガーの特集とか……あ、ゴアラの監督のインタビューも載ってたかも」
「わ、見たい見たい！」
　ののこの双眸がまた星屑を散らしたように煌めくのに、英二は口元に笑みを乗せるのだった。