いざ行かん、買い物日和！｜リアクション

いざ行かん、買い物日和！

　休みの日、椿美咲紀はホームセンターへと足を運んだ。
　足を運んだ、と言っても、移動は車だ。
　畑や庭の管理が得意なメイドの松本さんに車を出してもらってのお買い物である。
「松本さん、ありがとうです！」
　車から降りて、店の前を彩る緑に「わあ！」と声を華やがせる美咲紀。
　色とりどりの花々の鉢や、生き生きとした夏野菜の苗。
　それらがずらりと並ぶのを目に、美咲紀の心はうきうきと弾んだ。
「……っと、いけない。夏の暑さ対策の為に来たんでした」
　美咲紀の今日の目的は、窓の近くでプランター栽培をする予定の夏野菜の苗の購入だ。
「緑のカーテンを作るのです。今年の夏も、凄く暑そうだし」
　かくして、美咲紀は松本さんと共に夏野菜の苗を扱うコーナーへと。
　キュウリの苗とゴーヤの苗を手に取って見比べ、美咲紀は「うーん」と軽く首を傾けた。
「キュウリにするか、ゴーヤにするか……悩みどころなのです」
　緑のカーテンと言えばゴーヤで作る人が多いが、
「私はゴーヤよりキュウリの方が好きなんですよね。ゴーヤって苦いし。ニガウリって言うだけあるのです」
　という具合なのだった。
　ちなみに美咲紀、苦いと言ってもゴーヤが嫌いなわけではない。
　ただ、食べられる量や料理のレパートリーを考慮に入れると、軍配はキュウリに上がってしまうのだ。
　苗の前で暫しうろうろと悩んだ末に、
「うん！　やっぱりキュウリにしましょう！」
　と、美咲紀はキュウリの苗を慈しむようにして手のひらで包んだ。そのあと、
「えっ！　キュウリって収穫が遅れると凄く巨大化してしまうんです！？」
「だから、視界に入りやすい状態で育てた方がいいと……なるほどー」
　なんて、松本さんのアドバイスを受けて驚いたり、感心したり、
「私だけじゃ畑仕事はきびしいし、いつも本当に助かってるのですよ☆」
　と、にっこり笑顔で感謝の気持ちを伝えたりしながら、美咲紀は園芸コーナーを巡る。
「畑関係のお買い物は色々と重い物が多いんですよね……」
　というわけで、プランターに入れる土などは、松本さんがショッピングカートに入れて押してくれた。
　そうしてレジへと向かう途中、
「あっ、オクラの苗も買わないと！」
　大切なことを思い出して、美咲紀は慌てて苗のところに戻る。
　目当ての物を見つけて、手に取って。
　美咲紀は、辺りの花々にも負けないような笑顔を咲かせた。
「オクラは好きなので、外せないのです！　採れたてを毎日食べたい！」
　食欲という欲望に直結したチョイス。
　美味しく育つ日のことを思うと、自然、頬が緩んだ。
　たっぷりと必要な品を買い込んで、美咲紀は車へと乗り込む。
「松本さん、車出してくれてありがとー」
　言って、美咲紀はシートベルトを締めながら、寮に戻ってからのことを考えた。
（松本さんと一緒に植え付け作業、ですね。楽しみなのです☆）
　瞼の裏に、夏の鮮やかな日差しと植物達の濃い緑が見えた気がして、美咲紀はそっと微笑むのだった。

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