いざ行かん、買い物日和！｜リアクション

いざ行かん、買い物日和！

　それは、いつもの散歩のはずだった。
　とっくに日は落ちたあとで、街の灯りが、優しく桜月の姿を照らし出す。
　日光に弱い体質であるが故の、日焼けを避ける為の夜の散歩だけれど、
（――ああ、綺麗だ）
　と、月は夜空に散る星の煌めきや淡い月明かり、そして街が灯す営みの光の美しさに目元を和らげた。
　こうして輝きの海の中を歩くのは楽しい、と月は思っている。
　夜の闇から浮かび上がる光の中、月はいつも、湧き出す様々な気持ちをメモに書き、或いは描き留めていた。
　そこから、また新たなデザインが芽吹くのだ。けれど今宵は、
（買い物をしたい、なんて気持ちが湧き出してきてしまった）
　なんて胸中に呟いて、月はそっと口元に弧を描く。
　そんな時もある、こんな夜があってもいいよね、そう思ったのだ。
（今日は、少し足を伸ばそう）
　そして、自分の手に商品を取って、買い物をするのだ。
　普段の買い物は、大体ネットで注文して、それが届いて……という形を取っている。
（けど、偶にはこういうのもいいよね）
　夜も店が開いている辺りへ、と歩を進める月。
　段々、周囲を満たす眩さが増していく。
　まだ眠らない街のきらきらしさが、月の目を柔らかく細めさせた。
（何を買おうかな～）
　様々のショップのショーウィンドウを覗いて歩きながら、月は思案する。
　可愛い、或いは綺麗な服が誇らしげに並んでいるのを見ては、
（下着や服は、私が自分でデザインした物を仕立ててもらったりするし……）
　と、眼差しをまた前へと向ける月。
　資料として取り寄せているのもあるので、服飾関係は、それ以外にも結構数が揃っている。
　今買うならば、別の物がいいな、と思った。
（本は、最近電子書籍も買い始めた。後は……デザインに使う鉛筆とかノートとか、それくらいかな）
　大きな本屋の前を通り過ぎ、小洒落た文具店の前で少しだけ足を止める。
（ん～、何がいいかな～）
　文具店のショーウィンドウの前で、月は口元に手を宛がった。と、その時だ。
「――あ」
　小さく、声が漏れた。
　ショーウィンドウに、向かいの店が薄く映り込んでいる。
　そこは、愛らしい焼き菓子を商うショップのようだった。
　振り返って確認したところによると、菓子に合う紅茶も取り扱っている様子だ。
（うん。折角だし、おやつとお茶を買ってみよう）
　どちらも、常は月が自分で手に取るものではない。けれど、
（自分で探したり選ぶのもいいよね）
　そう思い決めると、心がふわりと弾んだ。
　スマートフォンを取り出し、周囲で菓子や茶を扱っている店をチェックする。
（色々回ってみよう。試食試飲しながら選ぶのも、楽しいだろうな）
　何軒か店を巡って――月は、その店に辿り着いた。
「ん、これ美味しいな、香りもいい」
　試食した紅茶の味に、赤の双眸が宝石の如くに輝く。
　うん、これにしよう、と、月はその紅茶と、それに合うクッキーを買い求めた。
　そうして、月は思う。
（彼女にこの紅茶を入れてもらって、一緒にクッキーを食べよう）
　楽しみだ、と、月はシンプルながらも上品に包まれた今日の収穫を、胸に抱き直した。

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：巴めろ
ファンレターはマスターページから！

お世話になっております、ゲームマスターの巴めろです。
まずは、ご参加くださった皆様、本当にありがとうございました！

買い物、というテーマにＰＣ様方の個性が滲むアクションをお預かりいたしまして、
リアクションにも、皆様の個性を滲ませられるようにと尽力いたしました。
お買い物な時間、お楽しみいただけましたら幸いでございます。

重ねてになりますが、ご参加くださった皆様に心からの感謝を。
この度も、本当にありがとうございました！

↑ページトップに戻る