猫鳴館、笑うべからず黒猫の狂嵐｜リアクション

猫鳴館、笑うべからず黒猫の狂嵐

● 成仏せよ、邪神よエロ本よ

　てんでに飛び出し、裏庭菜園に集まった者たちは見た。
　旧館の端から、まるで邪神が成仏するが如く、白い煙がもくもくと天へ昇っているのを。
「いや～～猫鳴館らしい眺めだねぃ。これで邪神もゴキブリどもも一掃だろう」
　にやにや笑いを浮かべた骨削瓢が、大量のエロ本と芋を手に現れる。
「やあやあ、掃除おつかれさん。え？　掃除する前より崩壊した？　なに、また直せばいいさ」
　そういう瓢の顔は煤け、普段着にしている茄子紺色の甚平の裾にも白い粉がついている。
　真央がううむ、と首を傾げる。
「もしかして、瓢ちゃんが黒猫サンだったのだ？」
　だが、瓢はニヤッと笑っただけで
「さあて知らんねぇ。黒猫サンってのは館妖精じゃあないのかい？」
　と空っとぼける。
「はいはいみなさん。休憩して焼き芋でもしようじゃないかね」
　瓢はパンパン、と手を打って焚き火の準備を始める。
　燃料はエロ本。流たちが見つけて、廊下にトラップとして撒いた本たちだ。瓢はおもむろに胸元からマッチを取り出し――黒猫サンが取り出したのと同じ箱であった――エロ本たちに火をつけた。

◇

　どんどんどんどん。

　芋が焼け、エロ本は次々にお焚き上げされてゆく。
「芋、うまい」
　雅樹が芋を頬張れば、綾花が用意してきたおにぎりとお茶を皆に配る。
　食べ終わったら真っ白くなった廊下をもう一度掃除しなければならないだろうが、腹が減っては戦は出来ぬ。
　しばしの休息だ。
「生き残ったのは真央ちゃんだけだったのだやったのだ」
　真央は嬉しそうにがおーを撫でると、手持ち鍋で温めていた４０年前のニャンカレーを、綾花から貰ったおにぎりをほぐしたところに躊躇わず掛けた。
　パクリ。
「うむっ！？　匂いは酸っぱめ……口当たりは謎のパサつき感……うっ、微妙に吐き気を催す味わいなのだ」
「そ、それ、食べたんですか……？　罰ゲーム、じゃないですよね？」
　彩が驚いて、真央を見つめる。
「好奇心なのだ」
　真央はカレースプーンを咥えて彩を見返した。
「真央ちゃんは食のチャレンジャーなのだ４０年前のカレー興味津々、なの、だ……う、腹具合が……」
　ぐ～きゅるる、と異音を発し始めた腹を押さえ、真央はトイレへと駆けだす。
「好奇心は猫をも殺す……食べない方が無難だな」
　永遠が当たり前の結論を口にした。
　食べちゃダメッ！　である。

「おーい。これも開けてみようぜー」
　流が持っているのはパンパンな『シュール……っぽいサンマ缶』。
　蓋を開ける勇者になったのは流と瓢で、蓋は爆発音とともに開き、中から尋常でない臭気が漏れ出る。
　焼き芋もおにぎりも４０年前のニャンカレーも、すべての匂いが硫黄と腐った玉ねぎと吐瀉物が混じったような危険な刺激臭に駆逐される。

「あぁ！　鼻が……鼻がァァァァ！」
「これは猫鳴館一帯が封鎖されるレベルの匂いですわっ」

　ひげメガネをしたままの解理とお嬢様な左右が悶え叫べば、他の皆も異臭の脅威から逃げ惑う。
　こうして猫鳴館の平穏知らずな一日は、ドタバタと過ぎていったのであった。

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