それぞれの回想｜リアクション

それぞれの回想

　柔らかい日差しの中、純白のワンピースを着たゼロ・シーアールシーが軽やかな足取りで歩いていた。銀色の波のような髪が陽光を弾く。愛らしい人形のような姿で繁華街の道を行きつつ、適当な路地へと入り込んだ。
　青い空は多くの電線に巻き付かれ、身動きが取れない状態に見える。その中をゼロは柔らかい地面の上を歩くように進んだ。
　住宅街に出ると横手から透明な玉がゆっくり流れてきた。陽光を吸って虹色を纏い、ゼロの頭上で儚く割れた。
「シャボン玉なのです」
　次々と流れてくるシャボン玉にゼロは手を伸ばす。一つとして触ることができずに宙に消えた。
　シャボン玉の出処を探すかのように銀色の瞳が動く。横手のマンションのベランダで女の子が次々と生み出していた。ゼロは風に身体を押されるように近づいた。目の前にふわりとシャボン玉が舞い降りる。左右に揺れる球体に目が釣られ、催眠術に掛けられたかのように瞼が下がってきた。
　瞬時にゼロの意識は空を飛んだ。薄い雲を突き破って重力の枷から逃れた。星々が凄まじい速さで真下に落ちていく。
　間もなく星々が消えた。超銀河団を越えて何もない空間に突入。更に果てを目指して加速する。
　その最果てにゼロはいた。今の姿と変わらない容姿でふわふわと歩いている。足元に大地は存在しなかった。空間の中を飛ぶようにして歩を進める。
　ゼロの周囲には巨大な天体が無数に浮かんでいた。それらは急速に縮んでいるように見えて、実は違っていた。
　ゼロが巨大化の一途を辿る。対比によって天体はシャボン玉のような大きさに至った。
「当たりそうなのですー」
　のんびりとした声でゼロは近くの天体に人差し指を近付けた。すると指先を恐れたかのように遠ざかる。次々に指差し、邪魔な物を退けた。
「魔法なのですー」
　言葉の通り、指先からは緩やかな風が発生していた。それはゼロの感覚に他ならない。現実には天体を押し退ける程の風力を有していたのだ。
　ゼロは無限と向き合って終わりのない散歩を続けた。その道中で二つの天体に出くわした。
　一つは、ほぼ色を失っていた。白に近い灰色で生命の力が全く感じられなかった。
　もう一つは近くに浮かんでいて仄かに赤い。ゼロは掌を近付けて少し唇を尖らせた。
「暖かくないのです」
　早速、人差し指を近付けた。蛇の舌のような細い火が天体を舐め上げると、全体が勢いよく燃え始めた。
　残りの一つに目を向ける。真っ直ぐに伸ばした人差し指を真上に持っていく。腹の部分に水が溜まり、滴となって天体を包んだ。急激に生命力が戻ったのか。緑と青が映える美しい姿に変貌を遂げた。
　そこで意識は途切れて一瞬で回復した。
　ゼロの目の前にシャボン玉が浮かんでいる。人差し指で突くと簡単に割れた。
「世界はシャボン玉みたいに見えたのですー」
　マンションから飛んでくるシャボン玉を次々に指で突いた。ほんのりと頬を赤く染めて気ままな散歩を再開した。
　歩道は飽きたのか。見つけた小さな公園に立ち寄った。ゼロは真ん中の辺りで立ち止まる。足元に視線を向けていた。その場にしゃがんで人差し指で軽く地面を突いた。
「昔のようにはいかないのですー」
　眠そうな目で立ち上がると弾むような歩き方で公園を抜けた。踊るような回転で行き先を決めて細い路地へと消えていった。

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