今や、世界は一変しました。
我らが寝子島、その暮らしの名残はすべからくうず高く積まれた瓦礫のひとつひとつとなり、かつては学生たちの明るい活気にあふれていた校舎も、人々の生活を支えた寝子電の車両も線路も、子供らや恋人たちを乗せて回り続けた大観覧車も、目に鮮やかな神社の鳥居も、駅舎も、家々も、桜台墓地の墓石たちも、漁港で揺れていた船らも、何もかもが砕けて雑然と混ざり合って、海上にただひとつの足場を形作っています。
あちこちから歪に突き出しているのは、赤と白、交互に塗り分けられた、いくつもの電波塔。形も大きさも様々な、多種多様なアンテナたち。
空は真っ暗。夜半過ぎ。
頭上に煌々と、今にも降り落ちてきそうに巨大な、血濡れのように赤い月。
ぱち。ぱちり。そこら中に打ち捨てられた、壊れかけのテレビたちが一斉に光を灯し始め……番組は唐突に、始まりを告げるのです。
『 ミ ッ ド ナ イ ト ・ フ リ ー キ ー ・ シ ョ ウ ! 』
……けれど。
「ハロー、ハロー!」
映し出されたのは、
白。
黄色、
緑、
水色。
紫、
赤、
青……黒。放送時間を外れた早朝や深夜に、テレビが画面を原色で彩るかのよう。
スピーカーから聞こえてくるのは、やけに浮ついたような、男の声。
「……あー。ハロー? 前説なんていつも彼女に任せきりだったからな、勝手が分からんね、こりゃ。まぁいい、追っ付け慣れるだろうさ……さて!」
見る者が見れば、そこに、もはや見慣れた
桃色髪の少女、あの含み笑いが無いことに、違和感を抱いたかもしれません。
声はそんなことを省みることもなく、語ります。
「いや、すまない、突然すぎたかい? お前さんたちのヤル気を削ぐ結果になってないと良いんだが。ま、あまり身構えないでくれ、今夜はまだ……そう、
試験放送ってやつでね。本番じゃあないんだ。まだ、ね。気楽に映っていってもらえれば、こちらとしてもありがたい」
途端、渦巻くように周囲から、にゃあ。にゃあにゃあ、にゃおう。猫たちの声。
じじじ……じじ、じいい。まるで、カメラ・レンズがピントを合わせるような、作動音。
「とは言っても……知ってのとおり、MFS! には毎度、奇をてらったテーマが定められているというわけなんだが。今回はまだ決まっていなくてね、ハハハ……うん。これも任せきりだったな。まぁひとまずは無難なところでね、お茶を濁すとしようかな、あーすまん! これじゃあ暗すぎるよな。君らのイケてる顔が、ちっとも映りやしない。待ってくれ、今、明かりを付ける」
か、と天へ向かって、伸びた閃光。
気付けば周囲には
三つの灯台がそびえ、夜空をまぶしいほどに照らし出しています。
「どうだい、ちょっとしたもんだろう? この演出。さて、テーマの話に戻るが、そうだな。今回は比較的シンプルな、こう……
バトルアクション! ってなどうだろう? 若い男の子なんか、好きだろう? そういうのが。女の子はヒーローに守られるヒロイン役ってやつで……や、もちろん自らハッスルしてくれたって、構いやしないさ! 大いに歓迎だ。任せるよ、そのへんは。それに、倒すべき敵ってやつもね、そら。こんなのはどうだい?」
ぐるり、あたりを取り囲む人影は、もちろん、人ではありません。
狼。熊。虎に豹。様々な動物を模した、
着ぐるみ……けれど決して、それらは遊園地で風船を配ったりおどけたり、愛嬌を振り撒くような、可愛らしいものではありません。
手には、肉斬り包丁。機関銃。巨大な木槌に、チェーンソーに……不揃いの牙が並んだ口からは、物言わぬまま、止めどなく唾液があふれ出し。瞳は落ち窪んでぎらついて、上質な獲物……つまりは
あなたを、じっと見定めています。
「……あー。何だな、ちょいと、ファンシーすぎたかな? とはいえ、愛らしい外見に手心を加えるのは率直に言って、全くオススメしないぜ? できるだけ長い間、痛い思いを味わうのがお好みだって言うなら、あえて止めはしないが……いや、そいつは俺の関知すべきじゃあないな。さて、そろそろ始めようか? 視聴者をいつまでも待たせられないんでね。準備は良いかい……って、聞かれても困るよな、ああ! 忘れてた。ルールは簡単、たったのひとつ。
なるべく長く生き延びてくれ、それじゃ、良い夜を!」
「これも……寝子島の、フツウ、なのか?」
口調は疑問形、けれど蜂矢 時生の指の間にきりりと張り詰めたワイヤーは、
冷たい夜気に似て、触れれば何もかもを音もなく切り裂くでしょう。
「さあ? 良く分かんないけど、やっつければ良いんでしょ?
かんたんカンタン♪」
身の丈を越える大鎌は骨肉もろともに敵対者を両断せしめ、
千明 優輝の無垢な微笑みを、よりいっそうに明るく彩るでしょう。
「……ずるいなぁ」
サキリ・デイジーカッターがひとたび腕を振るえば、
異形の蛇腹剣は生物めいて絡みつき、締め上げ、やがて引き裂くでしょう。
「いくらでも斬り放題だなんて……『戻ってしまう』じゃないか」
刃の閃きに、銃火と硝煙の香り……間もなく胸を満たすであろうそれらへ、思いを馳せて。
日暮 ねむるは銃剣の撃鉄を起こし、高揚に身を任せます。
「……さあて。楽しもうか……?」
夜は更けて。
死闘はここに、唐突な幕を開けました。
墨谷幽です、よろしくお願いいたします~。MFS! 第八夜となります。
ガイドには、日暮 ねむるさん、蜂矢 時生さん、千明 優輝さん、サキリ・デイジーカッターさんにご登場いただきました。ありがとうございました!
(ご参加いただける場合は、ガイドのイメージに関わらず、ご自由にアクションをかけていただいて構いませんので!)
今回のシナリオの概要
今回は、少々ダークでバイオレンスな、バトルアクション!となります。
舞台は、あらゆるモノが破壊され、その瓦礫がまぜこぜに積み重なった、寝子島の成れの果て。皆さんはこの場へ、唐突に放り込まれてしまいました。
おびただしく無数に押し寄せるのは、不気味な着ぐるみたち。これらを力や知識、武器や道具にろっこんなどなど、持てる全てをフルに発揮して、夜が明けるまで撃退し続けてください。
ただし!
あらかじめ明記しておきますと、今回、参加者の皆さまは、シナリオ終了時までにほぼ死にます。
(……あ、番組の演出上ということです。念のため)
最後に生き残っているのは誰もいないか、あるいはランダムな1人か2人といったところです。それ以外はみんな、着ぐるみたちによって殺されてしまうでしょう。
とはいえ、ただ死んでしまうわけではありません。
誰かが何らかの要因で死に至ると、周囲に3本そびえる光源、『原理不明の灯台』が強烈に光り輝き、一時的に周囲の敵を一網打尽に消し去ってくれます。
誰かの死は、誰かの生を、ほんのちょっぴり長く伸ばすことになるでしょう。
描かれるのは、バトルでの活躍と、そして死に様です。
勇敢なあなたは、いかにして戦うのでしょうか? あるいは怯えたり泣き叫んだり、逃げ回ったりして無様な一面をさらすのでしょうか? そして最後は、何を想い、何を託して死んでいくでしょうか?
死の間際には、皆さんの本質が現れることになるのかもしれません。
(なお、確定的な死については基本的にPCさんは知り得ず、プレイヤー情報となります)
アクションでできること
アクションでは、状況に際してどのように戦うか、あるいは逃げるのか、行動やアクションにおける見せ場、そして最後を迎える際の死に様等をお書きください。
なお以下は、今回の敵となる着ぐるみたちについて記されていると思われる、その辺に落ちていた資料です。
参考にしてください。
FO/X-44951『けものぐるみ』
・騙されてはいけない。中の人などいない。ぎっしりと詰まっているのは血と肉と骨、それに
殺戮衝動だけであると固く認識すべきである。
・FO『44951』は、一見愛嬌ある着ぐるみの姿を模している。着ぐるみの中に発生するのか、
あるいは着ぐるみの姿のまま発生するのかは議論が分かれるところであり、つまり全く不明である。
・『44951』は現時点で主に下記の4種が確認されており、それぞれに少なくとも人間を殺害
すべき対象と認識するだけの知性と、目的を果たすために必要な道具を扱う器用さ、それらを
活かすために必要十分な身体能力を備える。いずれも我々にとっては不幸なことに。
・『44951-A』(狼型、通称『Brother Task』)は手に赤錆びた肉切り包丁を持ち、愚直に
標的めがけ前進する。包丁の用途は記述すべくも無いが、彼は特に積極的な捕食行動を行う。
・『44951-B』(熊型、通称『Fat Daddy』)は、20年代のごときドラムマガジン式マシンガン
を持つ。彼の緩慢さや射撃の腕はこの場合において重要ではない。彼は一体きりでは無いからだ。
・『44951-C』(虎型、通称『Mammy Frozen』)は巨大な木槌を持つ。彼女は控えめであり、
あたたかい母性に満ち溢れているが、言うまでも無く我々に対して向けられるものではない。
・『44951-D』(豹型、通称『Sister Friday』)を見たら、まず諦め、そして覚悟するべきで
ある。彼女は俊敏で、チェーンソーを持ち、無邪気で、物陰に潜むのが得意であるからだ。
・『44951-E』(猫型、通称『Cat Baby』)には数件の目撃報告があるものの、未確認。未確定。
※本FOに対しては、隔離監視室の定期チェックに留め、通常の保守点検を行わないこととする。
万が一対象に不審な動きを確認した場合、すぐに定められた焼却洗浄措置を実行すること。
●1.行動、心情
勇気をもって立ち向かう、ひたすらに泣き喚きながら逃げ惑う、瓦礫の陰に隠れて怯える……など、状況に対しどのように思い、行動するかをお書きください。
なお、月明りがあるとはいえ夜闇は暗く、存在する3つの光源、3本の灯台から数メートルも離れると、敵の姿を視認することは困難になります。それぞれの灯台の間には百数十メートルほどの距離があり、移動は危険を伴います。
そのため、基本的には以下の3つの灯台のいずれかを初期位置として選び、拠点としてその場を死守することが推奨されます。
【1】北側 原理不明の灯台『トム』
【2】南西側 原理不明の灯台『ハリー』
【3】南東側 原理不明の灯台『ディック』
とはいえ、自由行動も可能です。舞台となる場所には身を隠せるような大きな瓦礫も散見され、隠れながら別の灯台へ移動したり、逃げ続けることもできるかもしれません。運が良ければ。
●2.戦闘方法、見せ場
戦闘方法について、特に制限はありません。武器、道具の持ち込みは自由で、ろっこんの性能も100%が発揮されるでしょう。
また、戦う術を持たない方、いつもと違った戦いをしたい方のために、現場には以下のようなオブジェクトも転がっているようです。これらは、誰でも自由に扱うことができます。
○光の斧:ひとたび手にすると、人が違ったように粗暴になり、死ぬまで障害や外敵を排除し続けるという斧。
○教官殺し:黒ずんだ血の染み付いた自動小銃。強力ながら弾薬の数は心許なく、補給は望めない。
○スペースオデッセイ:収束する光を刃として形作る剣。緑、赤、紫などの色がある。
○ハンニバルズ:大量に投棄されている小ぶりな刃物。鋭利かつ数も豊富。
○変り衣の香水:着ぐるみに香りを噴霧すると、無害な猫型に変えることができる。
○具象化する羽ペン:空中に動物の姿を描くと、ひとりで動き出すペン。一時的な囮として使うことが可能。
その他、ご自身の活躍を彩るような、お好きな道具なり武器なりをご指定いただいても構いません。
(一発で全部カタがつく最終兵器、とかそういう強力すぎるものは除きます)
●3.あなたの死に様
前述のように、今回はバトルで活躍をしていただきつつも、最終的にはそれぞれに死のシーンを迎えることになります。
内容は自由にご指定いただくことができます。多くは着ぐるみたちによる殺害、ということになりますが、その他の要因でも構いません。
(高所へ逃げた末に足を滑らせて、とか。自分の武器に振り回された挙句自滅、とか)
ただ死んでしまうのではなく、最後まで諦めずに戦い続けた末に、あるいは大切な誰かをかばいながら、などなど、ドラマチックなシチュエーションを設定してみてください。
あなたの死の後には、『原理不明の灯台』が光り輝いて敵を掃討し、一時的ながら誰かを救うことになります。そちらについて絡めていただくのも良いかもしれません。
また、その際はぜひ、あなたの死を深く印象付ける『最後のセリフ』を添えていただくと、より効果的なラストを演出しやすくなるかと思います。
※なお、描写はあくまで、倫理規定の定める範囲内での表現となります。
あんまりゴアなのはさっくりマスタリングせざるを得ませんので、あらかじめご了承くださいませ。
アクションには、上記の要素に加えて、
・今回は姿の見えない彼女について
・冒頭の声の主について
など、もし何か思うところ等ありましたら、合わせてお書き添えいただけましたら。多少なり触れさせていただくかも。
『ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』とは?
深夜、テレビ局の放送が終わった後に始まる、謎の番組。不可思議で不条理な出来事と、それに関わった人々の行動や、その顛末などが紹介されます。
いつも決まった時間に始まるわけではなく、また誰でも見られるわけでもなく、たまたま波長の合った人にだけ見ることができるようです。
このシナリオ内で描写された出来事は、全て番組内で放送されたものであり、現実に起こったことかも知れませんし、現実には起きなかったことかも知れません。
『ミッドナイト・フリーキー・ショウ!』のタイトルを冠するシナリオ内で、ご自身のPCが体験した出来事について、プレイヤーさんは実際に起きたこととして設定に組み込んでいただくことも出来ますし、番組上の演出や架空の出来事だったとしても構いません。
その他
●参加条件
特にありません。どなたでもご参加いただけます。
●舞台
全てが破壊され、末期的な状態に至った寝子島。おびただしく積まれた瓦礫の山によって形作られる、直径およそ200メートルほどの円形に近い足場。
ほとんどの地面は平坦で歩くのに困ることは無いものの、そこらじゅうに大小さまざまな残骸が転がったり積まれたりしています。
時刻は真夜中、晴れていて赤い月が出ているものの、基本的にはかなり暗いです。
ただ、周りには不思議な光を放つ3本の特殊な灯台がそびえており、夜空と、灯台の周辺だけは明るく照らされ、見通しが利くようです。
●備考や注意点など
※今回のシナリオには参加していないPC、NPC名を明記してのアクションは、採用されない可能性があります。申し訳ありませんが、あらかじめご了承くださいませ。
※アクションの内容によっては、MFS!内での限定された設定として扱われる可能性があります。また、内容によっては描写できなかったり、直接的な表現を避けて描写されることもあります。
以上になります。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております~!