小萩です。
このトピックでは、PCさんの外見や雰囲気などを、小説の登場シーン風に描写します。
出演希望のPCさんは小萩宛に【登場シーンSS出演希望】の件名でメッセージを下さい。
どんなところを・どんなふうに描写してほしいか、本文でリクエストをいただければ参考にします。全部おまかせでも請け負います。
内容によっては、時間がかかったり順番が前後したりする場合もあります。
期間は特に設けませんので、気が向いたら、どうぞ。
受付をお休みする場合もありますので、その時は再開を待っていてください。
なお、プレイヤーさん一人につきPCさん一人でお願いします。
雑誌記者という仕事は、どうしても生活リズムが不規則になるし、肩もこりやすい。せめて睡眠の質を高めるべく、私は寝具店に来てみた。
「肩こり対策でしたら、こちらのスウェーデン製の枕がおすすめですよ。大きいので肩ごと枕に載せて寝ていただく形になるんですが」
寝具店「ふとんのひぐらし」の若い店員の説明を受けて、私はその枕を持ってみた。大きく平べったい形で、なるほど、肩ごと載せるくらいの余裕はありそうだ。
「と言っても、僕自身は不眠症なんですけどねぇ」
お決まりの冗談なのか、のんびりとした口調で若い店員はそう言い、はははと頼りなく笑う。よく見れば目の下にはクマがあり、目つきもとろんとしていて眠たそうに見える。あまり印象に残りそうではない、雰囲気の薄らいだような男だった。左腕に包帯を巻いているが、大方、寝ぼけてケガでもしたのだろう、と私は勝手な想像を巡らせる。
「これ以外だと、どんなのがありますか?」
スウェーデン製の枕が思ったより高額だったので、私はやんわりと聞いてみた。
「ご予算にもよりますけど、そうですねぇ、こちらは国産で独自の素材を使っています」
私の心を見透かしたように、店員は「予算」という単語を口にした。商売柄で慣れたやり取りなのだとしても、見た目よりは頭が回るらしい。
そんな事を考えていると、ぶぅんというかすかな羽音が私の耳に届いた。何かの虫だろうか。
風を切って、店員の右手が動いた。拳が私の顔のすぐ脇をすり抜け、一瞬の後にぴたりと止まる。
「失礼しました。蚊がいたみたいで」
店員は事も無げに言うと、レジの横からウェットティッシュを抜き取り、手を拭いた。そこにはわずかに赤いものが付いており、血を吸った蚊を仕留めたのは間違いないようだった。
だが、あの一瞬で蚊の姿を捉え、片手で握り潰したというのか?この、ぼんやりとした様子の男が?
「何の話でしたっけ。ああ、枕でしたね。こちらは国産で独自の素材を使用しているんですけど…」
枕の説明はもうどうでもよくなっていた。私は名刺を取り出しながら、店員に聞いてみた。
「店員さん、何か格闘技をやっていますか?私、『リング』という格闘技専門誌の記者なんですが」
彼は嬉しそうに答えた。
「ああ、『リング』。読んでますよ。先月号の特集記事、すごく面白かったです」
記事に対する彼のコメントは、極めて的確だった。
私はスウェーデン製の枕を買う事にした。
自分があんまり女らしくないのは自覚している。だからあたしは今日、『乙女精神向上部』っていう、すごい女の子っぽい名前のクラブに来てみた。こういうのって、まずはメンタルからだと思うんだよな。うん。
ドアをノックすると「はい?」って声が返ってきた。
すごくきれいな声だった。大声じゃないのによく通る、涼しげな声。
「すいません!体験入部希望なんですけど!」
ぱたぱたと軽い足音が近づいて来るのが聞こえた。ドアが開く。そこにいたのは。
「うわぁ…」
あたしは思わず、声を挙げてたと思う。だって、そこにいた人が、すごくきれいだったから。
長い金髪に青い目。外人かと思ったけど、それ以上に、なんて言うか、お人形さんみたいな、妖精か何かみたいな、とにかく普通の人間じゃないんじゃないかと思うくらい、現実離れしてきれいな人だった。高校の制服を着てるのが不思議なくらい。
「いらっしゃい。歓迎するわ」
その人はそう言って、笑顔で部室の中へ招き入れてくれたけど、あたしは返事をするのも忘れて、バカみたいに突っ立ってるだけだった。
「どうしたの?」
下からあたしの顔を覗き込んでくる。青いバラの髪飾りが、金髪の中に咲いていた。
ああ、なんかいい香りまでする。何なんだこの人…!?
「すいません!やっぱり帰ります!」
あたしはビビっていた。こんなきれいな人が集まる場所に、あたしみたいな男女が入れるわけないじゃんかよ…!
「ねえ、待って」
その人は優しい声で、そう言った。声は優しかったけど、そこにはなぜか、拒絶を許さないような意思を感じた。
「せっかく来てくれたのだもの。お茶の一杯くらい、一緒にいかが?貴女とお話、してみたいわ」
あたしは逃げ出すこともできなくて、その人に手を引っ張られ(細くてひんやりした手だった)ちんまりとしたソファに座らされた。その人は紅茶をカップに注ぎながら言う。
「貴女も女の子らしいことに興味があって、来てくれたのでしょう?」
「は、はい、そうです…。でも、正直、先輩みたいになれるなんて思えないし、やっぱり無理だと思いました…」
「そんなことはないわ」
さっきまでと違う、明らかな強い調子で、先輩は言った。
「女の子ならみんな、ここで乙女となる資格はあるの。だから、貴女にその意志があれば、それだけで充分よ」
「そう…ですか」
「そうよ」
その言葉は、信じていいと思うだけの何かを持っていた。
「入部、したいです」
パーティー会場の片すみで、彼女は明らかに浮いていた。
年齢は中学生ほどで、おそらく今回が社交界デビューというところだろう。長い黒髪はまとめるでもなく飾り物ひとつつけるでもなく、ただまっすぐに背中に流している。メイクもごく薄いが、これは若者ならではの特権だろう。赤いアンダーハーフリムの眼鏡をかけているのが唯一、色白の整った顔立ちに華を添えていた。
彼女が浮いて見えたのは、決して地味な装いのせいではない。彼女は、その若さと裏腹に、パーティーのにぎやかさを拒絶するような空気を身にまとっていた。
「ご退屈ですか?」
私は少女に声をかけた。彼女はゆっくりとこちらに目をやり、迷うように少し間を置いてから、「はい」と答えた。その正直さに、私は苦笑してしまう。
「苦手なんです、こういうの。着飾ったり、意味もないおしゃべりをしたり。両親に行けって言われたから来たんですけど、アントアクアリウムでも見ている方がよっぽど楽しいわ」
「人間観察よりも?」
「観察する相手によります」
彼女の言葉は辛辣だった。
「こういうところって、みんな似たような事しかしないし言いませんから」
「違いない」
私が笑ってみせると、彼女は意外そうに目を見開いた。
「あの…」
「失礼、カネオと申します」
「あっ、神野美野梨です。カネオさんも、こういうパーティーって苦手なんですか?」
「はは、楽しい時もありますよ。ですが神野さんくらい若い人なら、見も知らない大人と実利の混じった話をするより、同年代のご友人と過ごす方が楽しいのは、自然な事です」
「友達なんかいません」
ひどくそっけない口調だった。そこには迷いもためらいもなく、ただ、無機質な事実を告げているだけのように聞こえた。
意外な答えとは思わなかった。今までの物言いからは、むしろ彼女らしいとさえ思えた。
「おかしい、ですよね」
彼女は初めて、ばつの悪そうな表情になった。
「でも本当なんです。友達なんて、いても面倒なだけで、一人で何かを調べたり作ったりしている方が、ずっと楽しいんです」
「それはそれは。いえ、おかしいとは思いませんよ。私の孫娘も似たような事を言います」
私がそう言うと、少女の表情が心持ち、やわらいだ気がした。
「今日は研究があると言って来ていませんが、機会があれば紹介しますよ」
「ありがとうございます」
しかしその機会は来なかった。神野家の破産の報せだけが、代わりに届いた。
「ごめんなさい」
と申し訳なさそうに言う先輩を、僕はもう一度、まじまじと見つめる。
長い黒のポニーテール、可愛らしい整った顔立ち、そこまでならどう見たって美少女なのに。
胸元には女子用のリボンタイでなく男子用のネクタイ。シャツもジャケットも男物。その下には当然、スカートじゃなくてズボンを履いている。
日曜日にたまたま町で見かけた瞬間から、ずっと気になっていた。もう一目ぼれと言ってもいいくらいだった。
だから学校でもう一度、その姿を見つけられた時は、本当にうれしかった。男子の制服を着ているのを見ても、何か特別な理由があるんだろうと思い込もうとした。でも、先輩が何のためらいもなく男子トイレに入って行くのを見て、僕の中で何かが崩れ去った。
トイレから出てきた先輩に、僕がそっと声をかけると、先輩はそれだけで何かを察したらしい。ランチタイムが終わって人の少ない学食まで僕を連れて来て、「ごめんなさい」と言った。
「やっぱり先輩、その…、男の人なんですね」
僕が恐る恐る確認すると、
「体も心も、完全に男です」
きっぱりと言われてしまった。
「こんな顔だし、小さい頃は女の子として育てられてきましたけど、男です」
なんなら胸さわってみますか? と聞かれて、僕はどぎまぎしながら、先輩の胸に手を伸ばした。平らで引き締まった感触だった。確かに女の子の胸の感触ではないような気がした。
「でも、日曜日はスカート履いてましたよね? 服も女物だったし」
そうじゃなかったら、いくら僕でも間違えたりしない。
「あれは、その、家族の趣味で…」
先輩は気まずそうに言葉を濁す。さっきの話と言い、何か複雑な家庭の事情があるらしい。
「メイド服を着れば、本物の女の子になれるんですけどね」
先輩の言っている意味がよく分からなかった。似合いそうだとは思うけど。メイド服。
でも「本物の女の子になれる」ってどういう事だ?
「えっと、厳密には、メイド服を着た状態で背中を直接なでてもらう必要が…。なんて言っても、信じもらえないですよね」
頼りなさそうな口調になりながら、先輩は言葉を続けた。
いったい何を言ってるんだろう。からかわれているんだろうか。
ともあれこうして、僕の一目ぼれは終わりを告げた。「男の娘」は実在する、という新しい知識だけを残して。
ママのおつかいで、あたしは魚屋さんに来た。
「いらっしゃい、お嬢さん」
魚屋さんにいたのは、あたしよりちょっと年上に見える、高校生くらいのお兄さんだった。髪はウルフカットで顔はけっこうイケメン。シャープな感じの眼鏡をかけてて、魚屋さんのエプロンより、もっとビシッとした感じの堅い服装が似合いそう。ふふ、ラッキーだったかも。
「エビ、大きいの10個ください」
「ありがとうございます。ところで」
あたしがぶら下げているスーパーの袋をちらっと見てから、お兄さんは言った。
「今夜のメニューはエビフライですね?それも何かおめでたい事があってのごちそうです。作るのはお嬢さん自身ではない誰か、まあご家族でしょう。その人は料理には凝り性だけれど基本的にはうっかりした性格。だからお嬢さんは今、その人から急におつかいを頼まれた」
えっ?えっ?何この人?エスパー?エビフライはカンかもしれないけど、なんでママのことがわかるの!?
「簡単な推理ですよ」
ぽかんとしてるあたしの顔を見て、お兄さんはくすりと笑った。
「スーパーの袋にマヨネーズとピクルスとレモンが入っている。加えてエビとなれば、これはタルタルソースの材料でしょう。既成品で済ませずタルタルソースを自作しようという人は、料理に対してそれなりに凝り性です。ですがお嬢さんは『エビを10個』と言った。料理に詳しい人ならエビは正しく『10尾』と数えますよ」
う~、エビの正しい数え方なんて知らないよ。
「だから、おつかいだというのは分かりました。そこまで凝り性の人が、調味料としてはベーシックなマヨネーズを、必要な当日になって切らしているのに気づいた。だからその人は、作る事には凝り性でも、基本的にはうっかりした性格なんだろうと思いました」
「じゃあ、おめでたいことがあったっていうのは?」
「スーパーでもエビは売っているからです。そこで揃えず、わざわざこの魚新まで足を伸ばしていただけたのは、料理にうといお嬢さんが大きいエビを指定して買えるように、つまり大きなエビでなければならない理由があったからだと、考えました。そして自分で買いに来なかった理由は、自分はほかの料理を作る必要があるから。つまり、今夜はごちそうです」
この人すごい!名探偵みたい!
「人の知らないことを知るのがボクの仕事です」
え、お兄さん、魚屋さんでしょ?頭良さそうだけど、ちょっと変な人かも。
出演:樹雨蓮太朗(RKM003292)
CDショップ『Pioggia d'aprile』の看板を私は見上げた。私はあるサックス奏者のCDを探していた。決して有名でなかった彼の唯一のCDは、極めて少数しか製作されず、ネットオークションですら出品を見た事がなかった。
自動ドアが開き、店内の音楽が漏れ出てきた。アナログ音源時代のジャズナンバーだった。
店内は決して広くないが、まだ新しく清潔な印象を受ける。私はジャズコーナーへ向かった。
店員らしい男が棚の整理をしていた。年齢は三十代半ばか、もう少し上かもしれない。細長い指先で、すっと一枚の盤を抜き取る。
CDのジャケットが目に入り、私は息を飲んだ。不機嫌そうなジャケットの顔写真は、間違いなく、私の探していたサックス奏者だった。
「すみません!」
私は思わず大声を出していた。男がゆるりと振り向く。眼鏡の奥で長いまつげが瞬いた。
「いらっしゃいませ」
愛想良く応じた店員に、私は勢い込んで言った。
「そのCDが、ほしいんですが」
言ってから思い至る。なぜこの店員はCDを棚から出した?どこかから注文が来たからではないのか?
「いくらでも払います。先客にキャンセル料が必要なら、それも私が払います。ですから」
「困ります。お客様」
私が必死に言いつのると、店員の声音が変わった。先ほどから一転し、今は冷厳ささえ感じる。
「こちらの商品はすでにご注文をいただいておりますので、お客様にお譲りはできません」
「金なら……!」
「当店では定価しかいただいておりません」
がくりと私は膝を折る。
「お客様」
店員が声をかけてきたが、返事をする気力もなかった。
「もしよろしければ、再入荷の際にご連絡いたしますが」
店員の無知さに私はあきれた。このCDが再入荷など、されるわけがない。しかし次の言葉に、私は再び目を見開いた。
「もちろん復刻版になりますが」
「復刻されるんですか!?」
「はい。来月中旬の予定です」
私は舌を巻いた。この店員は無知などではない。膨大な新盤情報の中から、こんなマイナー盤の復刻情報など、普通は把握しきれない。
「名盤ですからね」
「ええ、ええ!そうなんです!」
事も無げに答える店員に、私は頷くので精一杯だった。
「素人芸で恐縮ですが、私もサックスを吹いていまして。彼の曲はいくつか演りますよ」
この男の演奏が「素人芸」であるはずがない。私はそう直感した。