ちゃよなら、寝子祭！｜リアクション

ちゃよなら、寝子祭！

【"こども"らしくでいこう】

　楢木春彦は、はしゃいでいた。
「なんかすげぇうまそーなにおいがいっぱいだーっ！」
　彼もまた神魂の影響で幼児化し、記憶もどこかへ消し飛んでいた。
　高校生になった現在でも明るく元気な春彦は、５歳になることでさらに輪をかけて明るく元気になり、完全な五歳のやんちゃな少年に戻ってしまっていた。
　そんな春彦は同じように走りまわっていたしらさわあやこちゃん（白沢絢子）とばったり遭遇し、
「らんらんるー♪　はい、クリームつけましょうね～」
「えっ……なんだこれっ……って、あまっ……！？」
　と、鼻につけられたクリームの甘さに衝撃を受ける。
「……じゃなくてっ！　こらぁっ！　たべものをそまつにしたらダメなんだぞっ！？」
　思わず笑顔になってしまってから、取り繕うように、あやこちゃんに『めっ』をする春彦。５歳の彼はどうやらちょっとお兄さんぶりたいお年頃らしい。
　しかし、あやこちゃんはまるで動じずに、
「わー、おにいちゃんがおこったー、きゃー！」
　と、楽しそうな悲鳴を上げてまたクリームを持ったままどこかに行ってしまう。
「あっ、こらっ！　まてって！　たべものをだいじにしないともったいないオバケがくるんだからなーっ！」
　そんなあやこの背中を必死で追いかけながら、五歳児の春彦少年は必死でそんな言葉を叫び続けるのだった。

　　　＊　＊　＊

　橘明里も、はしゃいでいた。
「きゃっほう！　おいしそーなものがいっぱいあるの！」
　彼女もまた神魂の影響で三歳児になっていた。記憶も失っていたが、それ以前に彼女は鼻腔をくすぐる甘い香りに我を忘れていた。
「きっとてんしさまがあかりにぷれぜんとしてくれたものなのっ！　だからいっぱい食べなくちゃなのよっ！」
　彼女は『もれいび』ではなく、『ひと』であったために、これまでに遭遇した不思議現象もだいたい天使の仕業にしていた。
　その記憶がぼんやり残っているのか、今回も全ては天使のせいということで明里は納得していた。
　あるいは三歳だからおいしいものが食べられれば理由はどうでも良かったのかもしれない。
　そんなわけでさっそく明里はおいしそうなものを持ち歩いているあやこ（白沢絢子先生）のところに駆けていく。
「あかりにもそれちょーだいなの！」
「らんらんるー♪　はい、どうぞー♪」
　あやこは待っていましたと言わんばかりに生クリームを明里の鼻の頭に盛りつけた。
「ぴぎゃー！？　そ、そこはおくちじゃないの！？」
「なまくりーむは、おはなでたべるのよー♪　らんらんるー♪」
　あやこは聞いちゃいなかった。さらっとハイレベルな要求をしながら、鼻歌まじりにスキップしてまた次の獲物を探しにいく。
「……ひ、ひどいめにあったの。でも、とってもあまくておいしいの！」
　明里は冷や汗をかきながらも、鼻に盛られた生クリームをひとくち舐めるとすぐにご機嫌が直った。
　しかし、もちろん生クリームひとくちだけでは明里のお腹は満足しない。
「くんくん。なんだかほかにもいい匂いがいっぱいするの！　こうなったらあかりはここのたべものをすべてたべつくすしかないのよっ！」
　小さくなっても、食欲は同じ。満腹なしの小天使。その名も橘明里。
　そんな感じのキャッチコピーが書けそうな勢いで、明里の食べ物探しは続いていく。