ちゃよなら、寝子祭！｜リアクション

ちゃよなら、寝子祭！

【びっぐかていかしつの"たたかい"】

　その頃、りにゃる"おにごっこ"は佳境を迎えつつあった。
「そこだ、なんばせんぱいっ！　タッチ！」
　御剣刀は大きく床を蹴って、机に囲まれた安全地帯に逃げ込もうとする南波太陽の背中にタッチをした。
「ああっ！？　で、でもっ、ここはあんぜんちたいだからせーふっす！」
　太陽はタッチされたことは認めつつも自分はすでに安全地帯に入っていたからタッチは無効だと宣言する。
　安全地帯というのは八神修が即興でつくりだした、りにゃる"おにごっこ"のローカルルールで、机の向こう側に逃げ込んだものはタッチされないが１０秒以内に出ないと失格というエリアのことだった。
　もし、太陽が本当にエリア内に逃げ込んでいたなら、刀のタッチは無効ということになる。
　しかし、刀はむっとして反論する。
「いや、おれはちゃんとせんぱいがあんぜんちたいににげこむまえにタッチしたぞ！」
「いやいや、おれがはいったのがさきっす！」
　両方一歩も譲らない刀と太陽。
　もはや家庭科室は戦場である。
　と、そこにてちてちと修がやってきて、
「せんぱい。おれもみてました。ギリギリで御剣（みちゅるぎ）のタッチがさきでした。あきらめてください」
　と、ジャッジをくだす。
「がびーんっす！　あと５びょうでプリンだったのにっ！」
　太陽は頭を抱えて、口で「がびーん」と言った。ちなみにあと５秒でプリンというのは５分間逃げ切るとご褒美にプリンがもらえるという修の提案によるものであり、別にあと５秒で難波太陽がプリンになっていたわけではない。
「よし！　じゃあこんどはおれがにげるばんだっ！」
　刀が再び走りだすと、その後ろからあやこちゃんと楢木春彦がその背中を追いかけてくる。
「らんらんるー♪　こらー、まちなさーい♪」
「まってろ、ごほうびのプリンはおれのものだっ！」
　修はそんな二人を見て、刀にアイコンタクトを送った。
（御剣（みちゅるぎ）、頼んだぞ……。うまく白沢先生（しらさわちぇんちぇー）のお腹をぺこぺこにしてくれ……！）
　それに刀はこくり、と力強く頷いた。
　たとえ小さくなっても、何度も神魂事件を乗り越えてきた者同士、その心はまさに以心伝心の状態にあるように思われた。
　が、しかし、

（まかせてくれ、やがみ！　おれはかならず――ごほうびのプリンをゲットしてみせる！）

　肝心の刀は微妙に違った解釈をしていた。まあ、あやこを空腹にさせればミッションは達成なので、結果オーライである。
　と、そこではたと春彦が冷蔵庫の前で立ち止まり、
「あ、なんだこれ？　おお、なかにプリンがあるぞ！」
　ひょいひょいと身軽によじ登り、ごほうびのプリンの在り処を発見してしまう。
「よし、たべちゃえ――」
　と、思ったところで、ピピーっとホイッスルの音がなる。
　誰かと思えば、どこからともなく笛を取り出して、警告をした修だった。
「ならき、それはごほうびようだ。たべちゃダメだ」
「ちぇー……。なんだよ、こんなにいっぱいあるのによー」
　春彦は少し不満げだったが、素直に降りてきた。
　さて、そうしているうちに、
「ふにゅ～、なんだかつかれちゃった……」
　ついに元気もりもりだったあやこが根を上げて、床にへたりこんだ。
（よし、チャンスだ！）
　ここぞとばかりに動いたのは修だった。
「それじゃあせんせい、たべるまえに、みんなでごほうびのプリンにおえかきでもしませんか。なまクリームやデザートをたくさんもりつけて」
　それに、ぴこんとあやこの頭に電球が輝いた。
「するー！　なまくりーむはぷりんのあたまにのせるよ、らんらんるー♪」
　どうやら作戦はうまくいっているようだった。
「よし、じゃあみんなもれいぞうこのぷりんにおえかきだ。ちゃんとてはあらってからな」
　修の指示に「はーい」と子供達の声が重なりあう。

　かくして、家庭科室はようやく本来の家庭科室らしい有り様を取り戻していく。

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