ランチタイムはウォータイム！｜リアクション

ランチタイムはウォータイム！

▽星ヶ丘カフェ

　勤務医としての激務のために身体をこわして、現在友人宅で休養中の深倉理紗子。
　いくらか復調してきて、この日は親友おすすめの星ヶ丘カフェでランチをすることにした。
（ちなみにその友人は不在のため、今日はおひとりさまランチを満喫しています）

「お待たせいたしました」

　運ばれてきたのは野菜オムレツ、野菜たっぷりヘルシーサラダ、雑穀ごはんのローカロリーワンプレートランチ。
　もちろん星ヶ丘のカフェだけあって、盛り付けもオシャレで、高級感がある。

「おいしそう」

　思わず呟くと、ジュワっと口の中に唾液が溢れてきた。思った以上に食欲を取り戻したらしい。
　そのことを少し照れくさく思いながら、理紗子はまずサラダに手を伸ばした。

やだぁ、えっちぃ！！！

「ええ！？」

　可愛らしい悲鳴に驚いて、理紗子は慌てて手を引く。

（え、う、嘘……私に料理が話しかけてきた？）

　目を白黒とさせ、チラリとオムレツに視線を移すと――

見ないでください。変態。

ウチなんて、美味しくないでぇ。白米はんのが美味しいでぇ。

　なんとオムレツも雑穀ごはんも話すらしい。

（どうするのよ、これ……話しかけられたら……食べる気なくしちゃうじゃないの……）

　理紗子の持つフォークの先端が尋常ではないほど震えている。

いやぁん、食べないでよぉ。

もしかしてそれは私達を甚振ることに興奮している証ですか。変態。

ウチなんて、白米はんの足もとにも及びませんわ。ってことで見逃してください。

（だって……こんなに必死に自分のことを守って……。かわいそうじゃないの……）

　理紗子はフォークを置き、食べる意志がないことを示す。

そうやって油断させてから食べる気ですか。変態。

「そういうわけじゃ……」
「お客様、なにか問題でもございましたか？」

　と、不審に思ったのか店員が理紗子に声を掛けてきた。

「い、いえ、なんでも、なんでもないんです」

　どうする理紗子。短い葛藤の末――

「あ、あの……すみません、急用ができたので……お持ち帰りさせてください……！」
「かしこまりました。……衛生上の関係からお早めにお召し上がりくださいね」

（そんなの……食べられるはずないよ……、だから持って帰るんだし……）

「お客様？」
「は、はいぃ！　早く食べます。ありがとうございます」

　涙目になって店員に謝る理紗子を、食べ物たちは少しだけ不憫に思う。
　が、この理紗子のお陰で、彼女たちは命拾いするのだ。

理紗子はん、ええ人ですなぁ。……もしかして苦労も多いんとちゃいます？

　帰宅してから、理紗子は空腹でひもじい思いをするはめになるが……ひとときの間、食べ物たちとガールズトークに花を咲かせるのだった。