ランチタイムはウォータイム！｜リアクション

ランチタイムはウォータイム！

▽寝子ヶ浜海浜公園

　トラック運転手として毎日寝子島中を駆けまわっている曖浜鴻にもランチタイムはある。
　とあるビルに搬入をし終えたところで、寝子ヶ浜海浜公園のベンチで弁当を食べることにした。
　シンプルなアルミの二段弁当を開け、まずチャーハン（残り物の肉や野菜を放り込んだシンプルなもの）に箸を伸ばす。

ふっざけんなオラ！残り物炒めたからって舐めてんじゃねーぞ！

　耳をつんざくような怒声に驚き、鴻は思わず箸を止める。

「何だこりゃ？」

まーオレら形崩れてるし、しょーがねーんじゃね？
　あ、でも食われるの怖いからマジ勘弁。

　続けて、最初の怒声とは別の、なんだかやたら吐息を漏らした話し方をする男の声も聞こえてきた。

てめぇ何ふざけてやがる！　油でぎっとぎとにするぞコラァ！

まぁまぁ、落ち着いて……。食べられない為には、説得が肝要でしょうなぁ……。

　気を抜くと、聞き漏らしてしまいそうな弱々しい話し声も聞こえる。
　まわりを見渡してみても、渡り鳥こそいるが人影はない。

「……まさか、弁当が？」

まさかじゃねぇよ！　お前、俺を無視するとかざけんなよコラァ！

気が付かないでくれる方が嬉しいんだけどなーでもそれで食べられたらこまっちゃうしー。

これはこれは、ご主人。仰るとおりですよ。わしらの声に間違いありません。

　鴻がポツリと推測を口に出してみれば、ここぞとばかりに答えが返ってきた。
　しかし答えが返ってきたということは、つまり、やはり、そういうこと。
　口汚いのはチャーハン、にやけたような話し方をするのが歪な卵焼き、残る年寄り臭いのが肉じゃがなのであろう。
　どれもこれも鴻が自分で作ったもの。無下にする気にはなれない。

「言い分は少し位なら聞くが……だからって腐らせるのも捨てるのも食物に失礼だろ」

ハァ！？　これは戦争なんだぜ！？
俺らは食うか食われるか戦争してんだ、そこに礼とか糞みたいなもん混ぜ込むなや！

「……おい待て。今『戦争』つったか？」

ああ、言ったぜ。

「それを言うなら俺だってそうだ。腹が減っては戦は出来ねぇ。
　空腹で力が出ねぇんじゃ守れる命も守れねぇし、不注意で他の命を巻き込んじまうかもしれねぇ。
　だろ？」

……うむ、それは仰るとおりだ。

確かにそーだねぇー。……もしさー今度弁当作るときは、かわいー女の子も一緒に作ってほし～な。
俺の遺言はそんだけ。

おい、アホ卵にジジイ、んなこと言ったら……。

「もう十分だな」

　あとはせめて無駄にはしまいと心に誓い、鴻はピッタリと手を合わせる。

おい、や、やめ――

「いただきます」

　感謝して、残さず全て食らい尽くす！
　悲鳴も、無念もすべてを飲み込み、消化して昇華する。

ふざけんなよ！　簡単に死んでたまるか、俺はまだ死にたくない……。

「……さてと、午後からも頑張るか」

　弁当箱を片付けて、鴻はトラックに乗り込むのだった。

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