ランチタイムはウォータイム！｜リアクション

ランチタイムはウォータイム！

▽自宅兼職場

　頼まれていたソーシャルゲームのモンスターイラストの納品メールを送るとほぼ同時に、久須部紀伸の仕事部屋の扉を叩く音がした。

「お食事の支度ができましたよ」

　声を掛けた主は、いつも家事を~~丸投げ~~お願いしているお手伝いさん。

「はい、ありがとうございます」

　紀伸はウンと伸びをして身体をほぐしてから、お手伝いさんに連れられてダイニングへと向かった。
　テーブルセッティングはすでに終わっており、紀伸が席に着くと、

「それでは私は買い出しに行ってきますので」

　とそそくさと出かけて行ってしまった。
　部屋に１人残された紀伸はホカホカと湯気の立つ親子丼をじっと見つめる。
「うん、美味しそうだ……せっかくですので、冷めないうちにいただきましょうか」
　手を合わせてから、箸を伸ばすと――

うえぇぇええええええん！！

　けたたましい泣き声が聞こえてきた。声の出処は……まさか、なんとの親子丼だ。

私のかわいい子を食べるなんて酷いわ！

えーん。ママー怖いよー

　まさか食事に抗議されるなど、想像だにしなかった紀伸は目をぱちくりとさせる。
「……これが親の愛が為せる技でしょうか？　私、親不孝ですのでこういうのに弱いんですけど」

なら、食べるのを諦めて頂戴！

「そう言われましても……。こちらもお手伝いさんに栄養バランスを考えて貰って作って頂いた食事を欠くわけにはいきません」

私だって可愛い我が子を食べられてなるものですか！！

　すっかり困ってしまった紀伸は、じっくりと思案する。
　とはいえ、こんな事態は初めてのことなので、何から考えていいのかもわからないのだが。
（まあ無理矢理食べて泣き叫ばれたりや体内で響く断末魔を聞く羽目になっても、ホラー映画で慣れてますから平気、
　……ではありますが、現実で後味が悪いのは遠慮したいですね）
　考えてわかったことは、やはりこの状態はあまり歓迎できることではないということだけ。
　とりあえず……。

「私には貴方達が必要なのです、どうか食べられて貰えませんか」

　素直に、頼み込んでみることにした。

ごめんなさいね、どんなに頼まれてもはいと答えるわけにはいかないわ！！

　母の強さを目の当たりにし、紀伸は小さな感動を覚えながらも、だからといってこのまま空腹で過ごすわけにもいかなかった。

「そうですね、でしたら……」

　紀伸は箸で鶏肉だけをつまみ上げ、唇の側まで運んだ。

ママー！！

ママは大丈夫だから！　安心なさい。

「……奥さん、気が付いてますか？　奥さんの身体ぷるぷると震えてますよ。
　やっぱり怖いんですか？
　それとも……緊張なさってるんですか？」

怖くなんて、ないわ。

「それはよかった。……奥さんみたいな素敵な方を苦しめるのは、私も心外です。
　どうか、私に身を委ねてください。
　大丈夫です、なにも恐ろしいことはありませんから。そう、力を抜いて……」

ダメよ、そんな。私は……。

「……綺麗ですよ。滑らかで弾力のある筋繊維も、ふっくらとした脂肪も」

　紀伸はとにかく鶏肉の身体をこわばりをほぐすように、甘く優しく囁き続けた。
　その結果、気が付くと鶏肉の身はとろとろに柔らかくなっていて、ついに――

私を……食べて……！！！

ママー！！？？？

　陥・落。
　紀伸は鶏肉を労るように優しく優しく舌の上で転がして、すべてを平らげた。

「……これからは食事にもっと感謝をしましょう。
　犠牲の上に成り立っているのだと改めて感じさせられましたよ」

　ふうとひと息ついたところで、玄関ドアが開く音がした。

「ただいま戻りました」
「おかえりなさい。……今日のお食事も美味しかったです。ありがとうございます」

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