追われる身のはじまり｜リアクション

追われる身のはじまり

　——こいつ、俺の加速についてこれるのか……！
　御剣刀はゴクリと息を飲んだ。
　背後の者がろっこんに付いてこれたのは、スピードには自信があっただけに、地味にショックだ。
　——全てを置き去ってでも望む場所へ辿り着く、願いを掴み取る。その覚悟がろっこんって形になったのかなって、最近思えるようになっただけに尚更だな……。
　だが、能力に自信があるからこそ見えてくるものもある。
　背後にいる正体不明の襲撃者は、速さで自分に付いてきているわけではない、ということだ。
　——おそらくは常に背後に立つって能力なんだろう、それを利用すれば……！
　背後の者による背中への攻撃は、徐々に刀の力を奪っていく。焦ってはいけない、けれど、ぐずぐずもしていられない。
「お前、どうやって俺を倒すか考えてるな〜。無駄だよお〜、俺からは逃げられないんだよお〜」
「……俺がクローネに関わっている奴だってどうやって知った？」
「ん〜？」
「クローネに直接聞いたか？　それとも奴の使者か？　クローネを知っている別の奴か？」
「お前のことなんか知らないよお〜、たまたまお前がひとりだったから、聞いてみただけさ〜。知ってるなら、始末するだけ、簡単な話だろお〜？　知らなくても、この先邪魔になりそうな奴なら始末しちゃえばいい、一石二鳥ってやつだよな〜」
「手当たり次第に襲ってるってわけか……！　けど、どうしてこんなことをする……？」
「？」
「クローネにもれいびとして目覚めさせてもらったか？　それとも報酬をもらったのか？　……お前は誰だ？」
「お喋りな奴だねえ〜。誰と聞かれて、答えるバカはいないだろお〜？　そんなことより、自分の心配したらどうだ〜い？」
「……それなら心配はいらない。お前を倒す方法はもう見つけてある……！」
　刀は筋肉のバネを一瞬縮め、爆発させるように後ろに跳んだ。
　ただ情報を聞き出していたわけではなかった。会話に気をとられている間に、壁との間合いをはかっていたのだ。
　背後の者を影に叩き付け、そのまま壁に押し付けて、固定すると、相手の足の甲を踏みつけた。
「な、何を〜〜〜！」
「捕まえたぞ……！」
　そこを支点に身体を捻り、渾身の肘打ちを叩き込む。
「ぎゃあっ！！」
「今のは利いたはずだ。そろそろ離れたほうが身のためじゃないか？」
「こ、これぐらいで俺がやれるわけないだろお〜！」
「そうか、忠告したつもりなんだが、残念だ……！」
　そう言うと、刀は窓に向かって走り出した。背中を向けて、窓を突き破り、そのまま外に飛び出す。
　自分もろとも敵を地面に叩き付けるという捨て身の作戦だ……！
「もれいびは体が頑丈だし、死ぬことはないだろう……多分」
「……お前、あんまり頭良くないだろお〜」
「……ん？」
「１年１組が何階にあるのか、忘れてるんじゃないか〜い？」
「え？　あ……ああっ！？」
　寝子高は１、２、３階それぞれに１、２、３年生の普通教室がある構造。
　……ということは、この教室の外はすぐ地面なのだ。
「し、しまった……！　これじゃあんまり威力が……！」
「残念だったな〜、俺の勝ちなんだよお〜！」
　不意の襲撃に冷静さを欠いてしまったのか、痛恨の計算違いだった。
　これでは仕留めるのは難しい。力も大分奪われ、余力はなし。
　殺られる……その言葉が、刀の頭を走った。その時だった——
「ぎゃあああああああああっ！！！！」
　背中が地面に着いた瞬間、背後の者が悲鳴を上げた。
「……え？　な、なんで……？」
　背後の見えない刀には、何が起こっているのかわからない。
　だが、悶絶しているところを見ると、相当なダメージを与えたようだ。
　それもそのはず、背後の者の真っ黒な背中には、割れた窓ガラスの破片はグッサリ刺さっていたのだ。
「か、勝ったと思ったのに……！　ぐええ……！！」
　恨めしそうな声を残して、背後から気配が消えた。
　緊張の糸が切れるとともに、辺りにはいつもの寝子高の、放課後の空気が戻ってきた。
　刀はよろよろと立ち上がる。
「勝つには勝ったけど、よくわからない勝ち方するようじゃ、まだまだだ……」
　詰めの甘さを見せてしまったことを反省する。だが、本当に甘かったことを知るのはここからだった。
「……？　気のせいか、背中が燃えるように熱いような……？　……あ、れ……？」
　背中の敵が消えれば、そこにあるガラスの破片は、当然そのまま刀に向かうわけで……。
　その背中には無数の破片が刺さり、じんわりと赤い染みが広がりつつある。
「い、痛い……」
　幸い、傷は浅そうだが、地味に痛かった。
　もっと修行しなければならない……。ゆっくりと広がる痛みの中、刀は心に決めたのであった。

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追われる身のはじまり

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