駄菓子屋「かどや」の最後の一日｜リアクション

駄菓子屋「かどや」の最後の一日

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　スケッチが終わり、梨樹は店の中に入る。先ほど描いたばかりのページを開いて、座敷に腰を下ろしてお茶を飲んでいる店主に声を掛けた。
「ラムネ、ありがとうございました。あの……これ。ちゃんと、色塗って完成させるんで。そうしたら持ってきても、いいですか？」
「あら、上手だねえ。持ってきてくれるの？　それじゃあ、楽しみに待ってるわね」
　描かれた絵を見て、さとは嬉しそうに目を細めた。目尻の皺が、いっそう深く刻まれる。隣に座っていた林檎も絵を見て何度も頷いていた。
「私も、見せてもらってもいいですか？」
　店の隅で急須を片付けていた智瑜が、梨樹に声を掛ける。梨樹がスケッチブックを差し出すと、智瑜の瞳が輝いた。
「わあ……すごいですね。素敵です。みんなの思い出が詰まってるって感じで……」
　梨樹は、照れくさそうに視線を逸らす。自分の描いた絵で、これだけ人が喜んでくれるのは、悪くないと思った。また、少しだけ何かが見えた気がする。
「あと、買い物を……かご、もらってもいいですか？」
「はい、どうぞ」
　さとから渡されたかごを持ち、梨樹は棚に視線を移す。あまり駄菓子屋に来たことはないが、鮮やかな色の菓子は面白いと思う。
「戻ってきたです。おお、なんか繁盛してらっしゃる」
　猫の相手を終え、戻ってきた姫が狭い店内を見回す。朝に来た時と比べ、大分駄菓子の在庫が減っているように思える。
「……あ、じゃあ私は、一度外に出ていますね」
「そろそろ俺も帰ろうかな。婆さん、またな。お茶、ご馳走様」
『また来るね、さとお婆ちゃん！　お茶、おいしかった』
　空になった湯のみを手渡され、小さく付け足されたお礼の言葉に智瑜は笑った。
「どういたしまして」
　湯のみは後で片付けようと、邪魔にならないよう片隅に置いて智瑜は林檎と店を出る。

　姫が玩具を選ぶ横で、梨樹は駄菓子を見つめていた。プラスチックの容器の中には、真っ赤な液体が入っている。
「これは、どういうものですか」
「ああ、それはねえ。中に酢漬けのすももが入ってるんだよ」
「へえ……じゃあ、これを一つと……」
　目に映る駄菓子のパッケージはあまり目にしたことがなく、梨樹にとって新鮮なものだった。その中から、幾つか気になったものをかごに移していく。
　この店が昔からあるのなら、居候させてもらっている伯父や従姉もこの店を知っているかもしれない。なら、お土産代わりに幾つか買っていこうと、十円のグミやチョコレートなどを選んだ。
　会計を済ませ、スケッチブックを片手に梨樹は店主に向けて会釈をする。
「あの、それじゃあ、完成したら持ってきますから」
「ええ、楽しみにしてるわね」
　人の良さそうな店主に見送られ、梨樹は駄菓子屋を後にした。帰ったら、早速色を乗せようと考えながら。

　姫のかごには、ボール系の玩具や鼠を象った玩具。どれも、猫の運動用のものだ。多くの猫達と暮らしているからか、意外と玩具は消耗しやすい。幾つもの玩具の会計を済ませ、姫はさとの隣に腰を下ろした。
　閉店も近いというのに客足は途絶えることがない。姫は代わりに会計をしたり、戻ってきた智瑜が煎れてくれた茶を飲んだりと、さととの時間を思うままに過ごしていた。

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