ダンシングで人類愛な祭りの準備｜リアクション

ダンシングで人類愛な祭りの準備

【ダンシングで人類愛な生物部作戦会議〔個人研究＆実演篇〕】

　一方、こちら生物室でも、先日に引き続いて生物部の作戦会議が行われていた。
　議題は部員それぞれの個人研究の内容に移っている。
「――というわけで、私はやっぱり昆虫かなーと！」
　屋敷野梢は自然や動物が好きで、とりわけ昆虫を深く愛する少女だった。
「特に鱗翅類の食草の場所と、成虫が観察された場所のマップ、その標本展示ですかねー」
　日頃から九夜山などに侵入して、個人的な調査・研究を行っている彼女にとって今回の文化祭はまさにそれらの成果を発表する絶好の機会と言えた。
「いいわね。なら、私は寮の鶏の観察記録でも発表しようかしら」
　神野美野梨は眼鏡の奥の瞳を細めながら、自身の寮――猫鳴館で観察日記をつけている鶏に思いを馳せる。
「それから、夏の合宿で海に行ったときの生物観察記録もいいわね。あとはそれにプラスして生物部らしいナニカ……。そう、たとえば、寝子高らしく猫の分布マップなんてどうかしら？」
「それは猫達の縄張りを記録したマップってことかい？」
　新井すばるが少し驚いたように目を見開いて美野梨に訊き返す。
　それに、美野梨は「ええ」と頷き、
「そうね。縄張りね。写真だけじゃなくて、性格もつけるの。気が強いのか、臆病なのか、それとも繊細なのか。私のろっこんも役に立つと思うわ」
　と、続けた。美野梨のろっこん《猫との語らい》は、その名の通り、猫科の生物と会話（念話）ができるという便利な代物だ。猫について調査研究をするならこれほど役立つ能力はほかにそうそうないだろう。
「うーん。二人ともなかなかやるなぁ。じゃあボクの食虫植物研究や、未確認生物調査もまぜてもらっていい？」
　すばるも負けじと自身の研究成果を発表しようとしてみる。が、需要がなさそうなのは目に見えているのでその表情は半笑いだ。
「せっかくですから実演形式とかもやりたいですねー。部費も文化祭用のが出ると思いますし。たとえば魚の解剖からの食育、とか？　新井君、魚屋さんですし、安く仕入れてきてくださいよー」
　と、梢がそこで未確認生物は華麗にスルーしつつ、すばるに水を向けてくれる。
「オーケー。それじゃあマグロの解体ショーは――っと、さすがにそれはコストが高すぎるかな？」
　いくら魚屋の息子といえど、おいそれとマグロの調達を約束するわけにはいかなかった。
「それならメダカやプラナリアの解体ショーなんかがいいかもね。ショッキングな切断からの再生によるプラナリアの分裂ショー……。手品的な見せ方から生物や個の概念まで語れるよね」
　面白そうだが、虫以上に人を選びそうな題材である気もする。
「まあ、とにかくただ普通の発表をするより、この生物部らしいナニカをみんなやっていきたいな。ボク達みんなで、ね」
　と、そんな感じですばるはいつもように片目ウインクしつつ、わりと綺麗に話をまとめる。
「ええ、そうね」
「ですねー」
　美野梨と梢にも否やはなかった。あるはずもなかった。みんなで寝子祭を楽しみたい。その一点においては彼らの意見は初めから完全に一致しているのだから。

　かくして、生物部の作戦会議もひとまずの結論を迎えることとなる。