財布が落ちている！？｜リアクション

財布が落ちている！？

　烏丸エリオが九夜山の道を駆け上がる。中腹の辺りで印を結び、薄青い空へと跳躍した。
　茶色のジップパーカーの背中から黒い羽が現出した。ろっこんの『迦楼羅の如く』が発動して、鴉天狗の様相で空へと舞い上がる。
「空の散歩は気持ちええわー」
　のんびりとした声で羽ばたいて気ままに飛んだ。木の先端を掠めるように過ぎる。エリオは小さく右に旋回して戻ってきた。
　枝先に赤い財布が引っ掛かっていた。
「こんな高いところに財布があるやなんて。もしかしてお仲間さんやろか？」
　ひょいと摘まんで中を開いた。紙幣を目にして、なるほどー、と頷いた。
「持ち主は大人やね。子供はこんな大金を持ってへんしー」
　調べる過程で何かに引っ掛かるような表情を浮かべた。
「大人やのに、なんでカードが入ってへんのやろか？　かわりにヘンな紙が入っとったでー」
　摘まんだ紙をひらひらと動かす。暗号めいた内容が目に入り、なんやろかー、と近くの枝に降りた。
　紙を広げてぼんやりと眺める。頭が左右に動いた。エリオはパーカーのポケットに手を入れて、間もなく引き抜いた。手にはスマートフォンが握られている。片手で操作して答えを導き出した。
「三夜湖の近くの展望台やろか。ちゅーことは九夜山頂上展望台やね」
　その方角を見上げて目を細くした。
「飛べばすぐやけど、ここからは見えへんなー」
　背伸びをしても見えなかった。
「行ってみよかー。なんもなかったら財布は交番に届ければええし」
　畳んでいた背中の羽を広げる。
「ずっと会いたかった九夜山の神さんがおったりして……」
　エリオは笑顔で飛び立っていった。