【ハロウィン】空飛ぶホウキと魔女暴走族｜リアクション

【ハロウィン】空飛ぶホウキと魔女暴走族

　御剣刀は、早速勝負を仕掛けた。前もって確認した「最速の形」で飛ぶスタイルだ。減速しながらコースの最短を進むのではなく、生み出したスピードをできるだけ殺さずにゴールまで駆け抜けたい。箒で飛ぶことに慣れていない分、下手にテクニックを使わない飛び方をしたほうがいいという判断だ。
　作戦は、先行逃げ切りだ。コース始めのカーブの飛び方を工夫して先手を取りたい。カーブに差し掛かった刀は、コースの外側から、スピードを落とすことなく内線ぎりぎりを掠めるように曲がった。そして、そのままの勢いを維持して外側に抜ける。アウト・イン・アウトの走法を実践し、刀は僅かにリードを奪った。

　カーブを前に、小山内海は箒にしがみつくような姿勢をとり、右手を前に伸ばした。右手にはペンが握られている。ろっこん〈アクセラレイトライン〉の発動だ。難しいカーブも、ペン先が描いた軌道通りに半ば無理やり曲がる。
（飛ぶのに速度制限はないから、スピードを出す分には何も気にしなくていいよね！）
　ぶつかって何かを壊したりしなければいいだけなのだから、気分は爽快だ。直線のところで思い切り右手を伸ばし、ろっこんで加速する。
　誰よりも早く、何よりも早く。
　私は今、風になる―――！

　霧桐舞衣は箒の後ろに手を伸ばし、ろっこん〈エアロケット〉を発動させた。箒に噴出孔が出現し、圧縮空気が箒の加速度を上げる。旧市街上空の直線で、舞衣はユキーノを射程圏内に捉えた。
　コーナリングの時は、できるだけ速度を落としたくないため、遠心力に逆らうように空気を噴射する。一度に出せる噴出孔の数には制限があるので、下見したコースを思い浮かべながら操作した。
（あとは、緊急回避のために箒の下に噴出孔を作る、と……）
　万一の場合を考慮して、いつでも回避ができるよう箒の下部の噴出孔は出したままにしておく。今のところ心配はなさそうだが……
　舞衣が周りを気にした瞬間、不意にゼロ・シーアールシーの姿が目に入った。「いつのまにか」舞衣の横につけていたのだ。
「キ、キミは……？」
「えっとね、ゼロはゼロなのですー」
　驚く舞衣に、ゼロは純真そうに答える。一応は味方らしいが、その行動原理は謎であった。

　シーサイドタウンのビル群を前に、羽黒空は意識を集中させた。ビルの合間を通過する時はどうしてもスピードが落ちる。小回りの利く空にとってはチャンスだ。空は自身の翼をはためかせ、建物の隙間を素早く通過した。勝敗には関心はない。ただ、飛べるということが空を充実させていた。

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