【ハロウィン】空飛ぶホウキと魔女暴走族｜リアクション

【ハロウィン】空飛ぶホウキと魔女暴走族

「……フジコ先生？」
　マイペースに夜空を楽しんでいた蜂矢時生は、空中で止まってたそがれているフジコーノを見つけた。
「機嫌悪そう……どうしたんだろ」
　フジコーノの衣装やキラキラの感じにも、時生は全く動じない。美容師であるオネエの従兄、およびその知り合いに慣れているためだ。
「せっかくの楽しい夜なのに、そんな顔でいちゃ、台無し……だと思う、よ？」
　時生はそっとフジコーノに話しかける。顔を上げるフジコーノ。
「どうして、あたしの元に素敵な男性が現れないのかしら……」
「素敵な男性に口説いて欲しい……？うーん、じゃあ、おれ……一緒に探そうか？」
「そうなの？嬉しいわぁ」
「好みのタイプって、どんなの？」
　時生は違和感なく、女友達のような立ち位置で相談に乗る。
「ほら、あそこの彼は？逆に、口説いちゃう？」
「あら、いいわね。でも箒に慣れてないみたい……」

　少しずつ飛べるようにはなったが、檜山立樹の飛び方はまだおぼつかない。
「……わ、また……」
　バランスを崩した瞬間、肩に手が伸びる。
「あ、ありがとうございます。あなたは？」
「寝子島魔女暴走族レディース総長、フジコーノよ。箒は不慣れかしら？」
「フジコーノさんですか……えぇ、何分今日乗れるようになったばかりで……」
　立樹はフジコーノと時生の方を見る。
「皆さんすごいですね、箒を乗りこなしているし、フジコーノさんは箒も素敵で」
「良かったら、フジコーノさんの、相談、乗ってあげて……」
「相談？俺でよければ……」
　時生に言われて、立樹もフジコーノの悩みを聞いた。職業柄、彼は人の悩みを聞くことに慣れている。適度に相づちを打って、余計なことを言わずにもっぱら相手に話させた。
「そうなんですか……魔女にもいろいろあるんですねぇ」
「そうなの……あたし、魅力ないのかしら？」
「いえ、とても魅力的だと思いますよ。素敵な人には、素敵なことがあると思います」
　立樹が微笑む。無意識に発動したろっこん〈テンダースマイル〉で、フジコーノは幸せな気分になる。
「そうかしら？」
「ええ、それにそういう人は周りの人も素敵にしてくれるんですよ。経験からそう思いますね、俺は」
　立樹の言葉は、不思議な説得力があった。時生も続いてフジコーノを励ます。
「うん、皆、夜を楽しそうに過ごしてる……おれ、フジコーノさんにも、笑ってほしいよ」
「まあ……二人とも、ありがとうね」

　練習の末、やっと思うように飛べるようになった千明優輝は、考えをめぐらせながら魔女フジコーノを探していた。
「見つけられたら、どうやって口説こう？」
　見た目通りまだ幼い優輝には、ロマンチックな口説き文句はわからない。そうこうしているうちに、空中で集まって話している人影が目に入る。真ん中に居るのは、フジコ先生……そっくりの、フジコーノだ。
（見つけた！でもどうする？止めないとそばの二人が危ない……だけど何て言えばいいの？）
　盛大な誤解とともに悩む優輝。こうなれば当たって砕けろだ！
　優輝は頭のウィッグを勢いよく剥ぎ取った。服を脱ぐわけにはいかないし、こうでもしないと性別がわからないからだ。そして、ほとんどパニック状態のまま、彼はフジコーノの前に躍り出た。
「フジコ先生！僕で満足できるなら、煮るなり焼くなり好きにしてください！」

　場の空気が凍てついた。まさかの正面突破に、さしものフジコーノも絶句してしまったのだ。
「……あれ？僕、まずいこと言った？」
　優輝は気まずい雰囲気を打破しようとするが、もう遅い。
　いくらなんでもそりゃ無茶だ―――フジコーノの傍らにいた時生と立樹は、心の中で同時に突っ込みを入れた。