【ハロウィン】空飛ぶホウキと魔女暴走族｜リアクション

【ハロウィン】空飛ぶホウキと魔女暴走族

　天満七星は、相変わらず気ままに動く箒に苦労していた。落ちそうになることはなくなったが、速さの調整だけはうまくいかない。というより、さっきから速度は上がっていく一方のような気がする。
　止め方がわからないので、結局外部から徐々に減速していくしかない。木や建物を蹴ったり引っ掛けたりして速度を落とすのだ。
「あれは小山内様？あ、危ないです～！」
　こんな調子なので、近くに飛んでいる人がいるとぶつかりそうになる。幸い、お互い気づくのが早くぶつからずに済んだ。
『大丈夫？』
「だ、大丈夫です……」
　小山内海が書いたスケッチブックの文字に、七星は答える。
『ななほちゃんもレースをする？』
「一体なんのことですの……？」
　海は、笑って向こうを指さした。そこにいたのは―――
「このあたしに勝負を挑む奴はいないのかしら！？」
　島岡先生に「外見だけ」そっくりの、特攻隊長ユキーノが箒にまたがって啖呵を切っていた。
「あんたたち、退屈だからあたしと勝負―――」
しかし、七星の方はそれどころではない。
「勝手にやってください！」
　台詞を言い終わるより先に断られ少々凹むユキーノだったが、海の方はスケッチブックにさらさらとペンを走らせた。
『ほうきをかけて勝負！』
「上等だね！」
　ユキーノが答えると、横からも声が割って入る。
「待った！」
　御剣刀と、霧桐舞衣の姿があった。
「俺は、速さでは誰にも負けるつもりはない。勝負だユキーノ！」
　刀の挑戦に、負けじと舞衣も続く。
「『最速』の名を賭けて……じゃなかった、箒を賭けて勝負！」

「いいだろう、このメンバーで勝負……」
「ゼロもいるのですー」
「えっ」
　ユキーノは驚いて振り返った。ゼロ・シーアールシーが、「いつのまにか」箒に乗って浮かんでいた。
「お前は誰―――」
「ゼロはゼロなのですー。こんばんはなのですー。えっとね、箒を賭けて勝負、なのですー！」
「……」
「今日のゼロは、魔女っ子なのですー」
　身軽に飛び回るゼロに調子を狂わされたユキーノだったが、気を取り直して宣言する。
「スタート地点はここ、コースはちょうど島一周分だ。正々堂々勝負だ！」

　羽黒空は、ヘッドホン越しに聴こえる音楽に没頭しながら、風を切っていた。
「音楽を聴きながらじゃないと、飛行に集中できないので……」
空は音楽が好きだ。音楽が生活の一部であるといってもいい。だから、音楽を聴きながらだと調子も上がる。
「今日は、ノリの良さそうなロックを聴きながら飛行しますか……」
　純粋に、ただ「飛ぶこと」だけを楽しむ空。そんな彼女の目に、自分と同じように高速で寝子島の空を舞っている一団が目に入った。
「箒のレース……？」
　特に速さで勝ちたいという思いはない。でも、高速飛行の心地よさを誰かと共有できたら―――空は、自然と彼らの横について、寝子島一周レースに加わっていた。

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