繋がりを求めて｜リアクション

繋がりを求めて

＜校長室にて＞

（……いざ、取材という名の説得や！　あれがまかり通ったらうちの報道の自由も脅かされるからな！）
　奈々美は礼儀正しく校長室の扉を叩きました。取材相手に礼を尽くすのは報道人の基本だと思っています。
「どうぞザマス」
「失礼します」
　奈々美が校長室に入ると、窓際のデスクに座っていた小春校長が立ち上がり、会議用の長机へ移動しました。
「新聞部の鍋島ですわ、今日は突然の取材承諾ありがとうですわ。写真撮らせてもらってもええですか？」
　校長の前でも、奈々美は関西弁で話します。
「取材ざますね。そこにかけるざます。写真は、後で確認させてもらうざますよ」
　校長は、向かい側の椅子を勧めてくれました。奈々美は一礼して写真を撮った後、ペンとメモ帳を取り出します。
「早速なんですが質問させてもらいますわ。どうして突然このネット禁止令を？」
　校長はこの質問を予期していたようで、よどみない答えが返ってきました。
「ネットにはさまざまな問題があるざます。出会い系に詐欺、イジメの温床、ネット依存症……前から考えて、専門家に話を聞いたりしていたざますが、中間テストも終わり一息ついたこの時期が一番適していたザマス」
「なるほど……勿論、教職員も全面禁止ですよね？」
　これは想定外だったようで、校長はなぜそんなことを聞くのかというような顔になりました。
「何故そんな必要があるざます。教職員と生徒は違うザマス。教職員は大人ざますから、自己管理することができるざます」
「まあ、確かに校長先生の懸念もわかりますわ。せやけど、一方的に何でもかんでも禁止にしたら余計な反発も出ますし……何より臭いものに蓋でネットの怖さをちゃんと教育せずに放置するのはよくないと思うで？　そういう懸念があるなら禁止ではなくまず指導から行い、正しいネットマナーを教えるのが真の教育やと思うんやけどどう思います？」
「それは……」
　校長は答えに詰まったように少し考えていました。
（お、これはいけるで）
　奈々美が畳みかけようとした時。
　ガタン。
　窓のほうから音がして、二人は視線をそちらに向けました。

　その少し前。
「イエス、じゃ取り戻しにいこう。敵は校長室にあり、イーハー」
　樹とバニーは、窓の外から校長室の様子を伺っていました。
「机の上にスマホがあるみたいだな」
　デスクの上の箱の中に、紙が貼られたスマホが並んでいます。　
「バニーの投げ縄の腕なら取れる、でも校長がいては無理ね」
　その時、誰かがノックする音が聞こえ、うまい具合に校長が立ち上がりました。
　そしてデスクを離れたのでした。
　幸い窓は開いていました。
（（チャンス！））
　すかさずバニーが投げ縄を投げ、スマホにかけます。
　しかし、引っ張る時にスマホがぶつかり、ガタンと音を立ててしまいました。
「誰ザマス？」
　二人は慌てて逃げ出し、なんとか隠れました。

　一瞬遅れて、校長と奈々美が窓から首を出したのでした。
「逃げられたざますね」
「そうみたいやな」
　キラーンと眼鏡を光らせて、小春校長は一瞬の思案の後言いました。
「悪いけど取材は放課後に延期してほしいザマス」
「しゃあない、出直します」