繋がりを求めて｜リアクション

繋がりを求めて

＜持ち物検査＞

　ネット禁止令が通知された翌日のことです。
「今日からネット禁止令とか、あのザマス校長、よっぽど欲求不満じゃないの」
　などとＮＹＡＩＮに書き込みしようと思った二年四組の篠原翠響ですが、やめておきました。
「今日はとりあえず学校にスマホは持ち込まないことにしよう」
　とつぶやき、カバンの中に入れたのは「パッキー」の箱。
　要領のいい翠響は、普段からパッキーの空箱にスマホを仕込んで学校に持ち込んでいるのです。
　でも今日は普通にお菓子が入っています。　

　その朝、校門に立った杉村小春校長の足元には箱がありました。
「携帯、スマホを持ってきた者は自分からこの箱に入れるザマス！」
　しかし、ほとんどそれに応える者はなくそそくさと通り過ぎるのでした。
「自主性に任せたかったざますが、仕方ないザマスね」
　小春校長は眼鏡をキラーンと光らせたのでした。
　
「スマホとかとられるのいやなのよね。それなら最初からおいていくわ」
　伊達眼鏡で深い海色の瞳を隠している貴家衿花も、いつも持ってくるスマホを家に置いてきました。
「でも、意外と手持ちぶさたになるのね……ふとした時とか暇でついついいじっていたのね」
（この調子なら放課後が暇すぎてどうしようかしら）
　そんなことを思います。

　その後、各教室では持ち物検査が行われました。
（お菓子の箱の中まで調べるのなら、それ相応に念入りにしてるんだなと思うけど）
　翠響のカバンの中のパッキーの箱を見た担任の藤倉遼先生は、
「授業中には出すなよ。厳しい先生に見つかると取り上げられるぞ」
　と言っただけでした。
（やっぱり、大したことないわね）
　しかし取り上げられてしまった友人もいるようです。
「いやいやちょっと……携帯無いと困るんですけど……あー、どうしよう、これじゃお手伝いさんからのメール見れないじゃん……」
　長身の瀧原樹が嘆きます。
「大変ね。どこをどんな風に調べられたの？」
　翠響は尋ねます。
「うっかりしてたから、普通にカバンに入れておいたよ。今朝は急いでたし」
　樹は実は資産家の娘らしいのですが、どこか近寄りがたい雰囲気を出しているので詳しいことを知っている友人は少ないようです。
「帰りまでに何とかしないと困らせちゃうからなぁ……それに友達からのメールも入ってるし、陰気臭いかもしれないけど後でまた見たくなるし」
　樹の顔には怒りの色があります。
「……何より理由が気に入らないんだよね、物ひとつでどうにかなるほど単純な人間なんていないし、一昔前は小説の内容になぞらえた事件とかあったらしいのに……」
「スマホとられちゃったね。バニー学校終わったら映画いく約束してたのにどうしよう」
　そう言いつつお祭り騒ぎを楽しんでいる様子なのは、星ヶ丘にあるオークレイ牧場の一人娘、赤毛に青い目のバニー・オークレイ。
「学校終わったらNYAINで時間あわせて合流しようっていってたんだけどな……」
「困ったわね。どんなふうに調べられた？」
「ポケットに入れてたら委員長にチェックされたよ」
　翠響は他の友達にも調べられた時の様子をそれとなく聞いています。
（明日以降、学校にスマホをどう持ち込むかの検討材料にしたいものね）

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