【ハロウィン】寝子島ハロウィン☆デイズ！｜リアクション

【ハロウィン】寝子島ハロウィン☆デイズ！

　綾辻綾花は早川珪と向かい合っていた。
　向かい合っているだけではない。手を取り合って、ダンスの調べに身を任せていた。
　やはり、早川珪は早川珪である。彼はダンスも達者だった。
　ほとんど経験のない綾花を優しくリードしてくれる。彼の手を握っている限り、その案内に従っているだけで、素人の彼女もバレリーナのように、優雅に舞うことができた。
　つづけて音楽がゆったりしたものへと変わった。本日何度目かのチークタイムに入ったのだ。
　このとき珪の腕の筋肉が、硬直するのを綾花は感じ取った。体を離すべきではないかと逡巡しているのだ。けれど綾花が一歩を踏み出した。
　つまり彼女は、彼の腕に身を預けたのである。
　静かに息を吐き出すと、珪は彼女の肩に手を置いた。
「先生……私……」
　胸が詰まって、綾花は想いを口にしていた。
「もっと、大人っぽく振る舞えればいいんですけれど……」
　彼は否定も肯定もしない。ただ、
「どうして？」
　と聞いた。
「なぜって、先生はずっと大人っぽくて、この場所にもぴったりで、なのに私は……背伸びしているだけで……場違いじゃないですか？」
　声を出さずに珪は笑った。
「僕は、綾辻さんは綾辻さんのままでいいと思うよ。それに、この場所にいるべきなのは、今この時間を楽しんでいる人だとも思っている。それでいいんじゃないかな？」
　楽しくない？　珪は聞いた。
　綾辻はゆっくりと首を振った。
　やっぱりこの人が、好き。
　この想いをいつまで、隠し続けていられるだろう――。
　夜が更けていく。

　洋菓子店『Raton』の四人も、ダンスを楽しんでいる。

　荒井景貴は経験者なので、ペアを交換するたび相手にあわせ、しかもアドバイスする余裕があった。
「洋美さんは、徐々に足取りが軽やかになって良い感じです」
　そう言って、曲の切れ目で鹿嶋洋美に一礼して手を離した。
「ありがとうございます。ダンスは未経験ですけど、けっこう面白いってわかりました！」
「かー、景貴はなにやらしても上手いなー。俺もダンスは初体験、相手の足踏んづけないよう四苦八苦してるってのによう」
　ジニー･劉はゼハゼハ荒い息をしている。幸い、今回パートナーとなった紅林柳霞は経験者なのでそれほど苦労はしなかったが、最初に洋美と組んだときはかなり危なかったと言わざるを得ない。
「なあ景貴、今度は俺に稽古つけてくれよ。女側は景貴にやってもらうってことでよー」
　これは冗談だったのだが、あろうことか景貴はうなずいて、
「いいですよ。踏んでも構いませんのでのびのびとやってください。なに、僕も習いたての頃は、相手を踏みまくっていました」
　と優雅にジニーの正面に立ち「お願いします」と礼をした。
「え？　マジ、ジョークだったんだが……うわ」
　音楽が再開されると、ジニーは恐る恐る景貴と合わせる。ところがこれがウマの合うこと、リズムが完全に一致というか、景貴に釣られて足を出し腕を倒していくことで、音楽が体に一体化するような感覚を味わったのである。景貴と踊ることで初めて、ジニーはダンスの楽しさがわかったような気がした。
　これまでの五分が三十秒に縮まったかのようだ。あっという間に一曲が終わった。
「……う、なんつか、すげえ。ちょっと……気持ち良かった」
「ええ、ジニーさんとは不思議と息がぴったり合いますね」
　景貴はにこと微笑んだが、ジニーは微笑みを返すよりも、自分の背後にいるであろう柳霞の視線が気になった。
「き、きゅうけーい、俺、休憩！　洋美もなんか食いに行こーぜ」
　ぱっと洋美の手首を握って、ぱたぱたぱたとジニーは退散する。
「えー、劉さん、せっかくダンスが楽しくなってきたところなのにー」
「ほらほら、豪華ディナーが待ってるぜー！　食いだめしときゃあと三日は空腹でもしのげる。味を反芻してな！」
「ちょっと牛じゃないんですからー！」
　二人が言ってしまうと、柳霞が進み出て一礼する。
「洋美さんは足取りが良くなってきて、ジニーさんとは不思議と息がぴったり合う……って景貴さん、言ってましたけど……それで、私と踊ってどう感じました？」
「……柳霞さんとは……」
　すると照れくさげに、景貴は頬をかいて言ったのだ。
「以前踊ったときよりも胸の奥が苦しいような……」
「それって……」
　柳霞は一度だけ、両腕でぎゅっと我が身を抱きしめた。そして、消え入りそうに小さな声で、こう返したのである。
「私も一緒……だよ」

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