【ハロウィン】寝子島ハロウィン☆デイズ！｜リアクション

【ハロウィン】寝子島ハロウィン☆デイズ！

　海沿いのベンチに並んで座っている二人は、七峯亨と矢萩咲だった。隙間屋・今鯛で手にしたたい焼きをほおばっている。
　たい焼きばかりではない、彼らはチェックポイントを回って集めた今日の戦利品を、ここで仲良く分け合っているのだった。
　海風があるので決して暖かくはないのだけれど、それも悪くはないものだ。寒ければ寒いだけ、身を寄せ合う口実ができるのだから。
「ふむ、ここのたい焼きは前から食べて見たかったんだ」
　やけに美味そうにたい焼きをかじる咲を、しばらく黙って亨は見つめていたが、
「いやあ、たい焼きみたいなの俺、苦手だから……って俺の分も咲さんにあげちゃったけど、そのお口に食べられていく姿を見ていると……気になってきましたよ」
「ん……食べてみるか？　亨君」
「いいんですか？」
「いいも何も、元々もらった分だ。ほら」
　自分の食べかけを無造作に、咲は亨の口元に向けるのである。
「いやー、これはありがたい！」
　などといいながらパクっと亨は、咲の歯形をそのまま口でくわえたのだった。なんだか、お預けをくらっていた賢い犬が、やっと許されてエサを口にしたような動きだ。
「……フッ、美味しいか？」
「え、そりゃもう美味し……あ、これって、ね？」
　突然にへらーっと笑みを見せた彼を、咲は怪訝な目で見る。
「これって？」
「間接……」
「間接……か、間接キス！？」
　そうと悟った瞬間咲の頭が噴火した。そんな風に、亨には見えた。
「うわぁぁぁ！！！　咲はなんて事を無意識のうちに！？　あうう……」
　言うなり彼女は茹で蛸のように真っ赤になり、やはり茹で蛸さながらに、くにゃっとベンチで前屈みになってしまったのである。膝に額をつけ、「あうあう……」と両手で顔を覆っている。
「そんな極端な反応しなくなって」
　まあまあ、と亨はなだめるわけだが、これはこれでいいと思っている。
　――あらま。茹で上がった咲さんもまた可愛くて素敵……。
　ところがここでなにか、小さい音がしたような気がした。咲のほうから。
「咲さん……？」
　その声を耳にした途端、咲は身を起こした。
　顔を上げたとき、彼女はまるで別人だった。
　同じ顔、同じ姿、けれどもどこかあきらかに違う。最大の相違点は目だ。さっきまで、傷つきやすい桃のようにピュアで、けれども白くまっすぐな光を宿していたその目が、赤みを増して紅玉のようになり、得物を狙う猫科の獣のごとく、鋭くらんらんと輝いていたのである。
　それに釣られるようにして、表情も変化していく。
　決意を秘めた精錬なる処女の唇が、なにかぬめぬめした、赤い蛭のような質感を帯びていく。しかもその口で彼女はゆっくり、艶然と微笑んだのである。
「ふふ……」
　亨は息を飲んだ。いまの咲は戦慄を覚えるほどに美しく、色っぽい。むっとするくらい濃厚な女の匂いがした。甘い、乳製品のような香り。その香りを吸うだけで、なぜだか亨の動悸は速まるのである。男としての衝動が四肢にみなぎってくるように思えた。
「どうかしました？」
「……何でもないわ」
　そうして次の瞬間、亨の体に電気が走った。
「そうだ、お礼しなきゃ………ね」
　と含み笑いして咲が、彼の頬に口づけたのだった。
　甘い香りが再度、息苦しくなるくらい亨を包み込んだ。
　据え膳食わぬはなんとやら、これで何もしないなら、男ではないと亨は思う。もう我慢できない。太陽がまだ出ていたって構うものか、駅付近の宿でご休憩してもいいし、時間がないならそこらの茂みで、大急ぎで済ますことだって――と、頭は目まぐるしく回転を始めるも、言葉だけは平穏に、
「仕方ないなぁ」
　誘ったのはそっちですよ、という風を保ちながら亨は言ったのである。
「そうくるなら貴女を月にして、雄になりましょ……」
　と咲を抱きすくめようとした両腕が空を切った。
　彼女が音もなく立ち上がり、一歩前に踏み出したからだ。
「残念、そろそろ行かなくちゃ。私、約束があるのよね」
「え、先約？」
　勢い余ってベンチの背もたれに両手をついたまま、亨は咲を見上げる。
「ええ。言わなかったかしら？」
「……ってあぁ、ちょっと！」
　すでにこのとき、咲はかつかつと、ブーツの音たてて歩き出していた。
　颯爽という表現がふさわしい、それくらい迷いもなく、それくらい、手早く、彼女の背が遠ざかっていく。
「ここでお預けって！！　咲さんのいけずーーーーぅぅぅぅ！！！」
　哀願するように亨は吠えるわけだが、彼女に考え直す気は微塵もないらしい。
　悲痛なる男の遠吠えが、潮風に乗って流れていった。

このページにイラストを設定する

【ハロウィン】寝子島ハロウィン☆デイズ！

シナリオ

シナリオデータ

シナリオスケジュール

参加キャラクター一覧