小さな夢を抱いて｜リアクション

小さな夢を抱いて

　等身大の猫を思わせる格好で後木真央が道なりに歩いている。頭をすっぽりと覆うフードには猫の耳が付いていた。同時にケープの役割も果たし、三色柄もあって三毛猫ケープという愛称で呼ばれていた。
「今日も真央ちゃんは元気なのだ」
　切れの良い腕の振りが証明している。真央が屋台の前に差し掛かると、若者が売り文句を高らかに口にした。
「抱いて眠ると夢の中に現れる、不思議な縫い包みはいかがですかー」
　真央は立ち止まって顔を横に向けた。ワゴンに積まれた縫い包みに引き寄せられる。
「縫い包みの夢が見られるのだ？」
「はい、そうですよ。値段は五百円です」
　耳にした真央はワゴンからマグロの握りを掴んだ。
「これも夢に出てくるのだ？　回らない寿司が食べ放題なのだ？」
「そうなりますね」
「夢の中で夢のような食べ放題なのだ！」
　真央は小躍りの状態となった。側で見ていたアベルは、ほんまに嬉しい？　と疑問の声を出した。
「晩ご飯のあとやで？　食べもんの夢は悪夢やん」
「夢の中は別腹というのだ♪」
「それ、甘いもんやろ？」
「食キングの真央ちゃんは誰の挑戦でも受けるのだ！」
　真央はワゴンに向き直り、食べ物を模した縫い包みに目を注ぐ。
　その結果、二つの縫い包みが選ばれた。右手には名古屋コーチン、左手には味噌煮込みうどん。真央は苦悩の末に左手を高々と上げた。
「これを下さいなのだ！」
　興奮した様子で縫い包みを購入した。

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