もぎたて☆フレッシュ！　～どんぐり農園の愉快な果物狩り～｜リアクション

もぎたて☆フレッシュ！　～どんぐり農園の愉快な果物狩り～

「……ふむ」

　柿と変じた自らの両手を見つめ、薄野五月はじっと考え込んでいた。

　ローテンション、マイペースな彼女だが、突如降りかかった異変に、悩むところがあった。
　なぜ、このような事態に巻き込まれたのか。
　このことが、自分の人生にいかなる影響を齎すのか。
　いや、そんなことではない。

（この柿が、甘柿なのか渋柿なのか）

　それが問題だ。

　空が高い。顔を上げれば、眼鏡に青が映えた。

「不肖、薄野五月、甘柿も渋柿も大好きでありますが――」

　彼女の実家、蕎麦屋すすきのでは、季節のデザートも供している。
　精巧な和菓子を提供することもあれば、そのまま果実を切って出すこともある。
　まるで焼き物のように美しく、糖度も群を抜いて高い柿は人気のメニューだ。
　まだ渋いそれを、軒に吊るして干し柿にする、その手間もたまらなく風情がある。

　はたして、この私の両手は甘柿なのか、渋柿なのか。

（実に――悩ましいですね）

　百舌の鳴き声が響く。

　もしも――渋柿ならば。
　五月の目が、すっと細まる。

（その時は――皮を剥いて干さねばなりません）

　薄野五月、どこまでもマイペースである。

　雲が、テオの形を作った。

（お互いを、食べてみろ）

「なかなかに、バイオレンスなことを……」五月が目を瞑る。「そうか、食せるのか」
　
（ならば、食さねばなりますまい）

　目を見開き、手の柿をあんぐり齧ろうとする五月。
　その手がぴたりととまる。

　あえて、自分で食べる必要もないだろう。渋柿を食べるのはやっぱりあれだ。
　このまま誰かに食してもらう方が早いだろう。

　此方を食べる気満々の相手なら、突撃してみるのもいい。
　柿の攻撃力は、侮れないかもしれない。
　柿パンチを試せ、自分が甘いのか渋いのかもわかる。一石二鳥である。

　とりあえず、誰か探してみましょうか……。

　五月は、ほてほてと歩き出す。
　
（ふっふ）
　その口元から、笑みがこぼれた。

　うほほーい。両手を飛行機のようにして、五月は走り出す。
　この状況を、心から楽しんでいるのだった。