もぎたて☆フレッシュ！　～どんぐり農園の愉快な果物狩り～｜リアクション

もぎたて☆フレッシュ！　～どんぐり農園の愉快な果物狩り～

　道。男みたいな名前だが、女の子である。
　男の子によく間違えられる。好きではない。
　子供みたいな自分も好きではない。
　この年頃の子にありがちな、コンプレックスの塊。

　だから、アリサのような、眩い大人の女性には、気おくれを感じる。

　フィーナ同様、道も神魂がらみの事件には今まで遭遇したことがない。

　テオの言葉も、自分の身に起こったことも、わけがわからない。

（私は果物狩りに来てたはず……）
　しばらく考えて、彼女は実に常識的な思考にたどり着いた。「そうよ、これは夢よ」

　ならば、好物のバナナに変身したこともあるし、徹底的にバナナのすばらしさを力説してやろう。

（どんぐりの精とやらに、バナナが一番ってことを教えなきゃ……）

　――おい。
　声をかけられ、びくりと体を震わせる道。
　望春とはぐれた檸檬だった。

　檸檬は屈んで、道にニッコリと笑いかける。
　道はほっとする。おかしな恰好をしているお兄さんだけど、悪い人じゃなさそうだ。

　檸檬は、道の頭部を見遣る。
　バナナが好きか。檸檬の問いに、頷く道。

「バナナは栄養価が高いが低カロリーで、ビタミン豊富で美容にいいし、それからそれから……」

　一生懸命力説する道を、檸檬は笑顔で見つめる。

　――バナナ、いい趣味だ。

　そういって、檸檬は道の髪に差されたヘアピンを見る。
「バナナのヘアピン……」

　道の大人びた言動の裏にある、コンプレックスや憧れを、檸檬は感じ取っていた。

『あいつ』ならば、この女の子の友達になってあげられそうだ……。

　ひとしきり話した道に、檸檬は笑いかける。
　とりあえずここでお別れ、と言って、檸檬は道にこう伝える。

　女子力の高そうな、ヘアピン好きの男にあったら、話をしてみるといい。
　たぶん、気が合うだろう。

　檸檬のつぶやきに、道は理由もわからないまま頷いた。