学園ロミオとジュリエット！｜リアクション

学園ロミオとジュリエット！

　　【ついに来た】

　ついに、その時は来た。

　叶寿里の脳天に、今までは気配もなかった、金タライがついに落下したのである。

「……仰られていた幸運はここまでのようですね……」
　綾辻綾花が覚悟を決める。

「どこまで愛に洗脳されているのッ、特撮ソング！これなら近年の重火器とかマフィアとかが普通に出てくる乙女ゲームオープニングを歌わせた方がマシだわっ！」
　羽生碧南が心から叫ぶ。

　そして情熱高まり暴走に拍車が掛かった寿里のろっこんは、明確に周囲を巻き込み始めた！

　綾花が予測済みとばかりに自分の上にも降って来たタライを華麗に受け止め、それを頭に被り、更に追撃として落下してきた物をガード。
　緋紅朱赫乃は小さな悲鳴と共にしゃがみ込んで回避。そして、そのおこぼれとして、お風呂に浮かべる１ｍ台のアヒル人形の体当たりを受けて倒れる碧南。

「２-３に用事があるだけだから！」
　残酷な触手時のろっこん発動が後を引きずる桐野正也にもそれを免れる術はなかった。

　気がついたら、頭にパンティを被っている。
　気がついたら大手を振った手には真っ赤なブラジャー。

　ろっこんだと分かっているのに女の子の目線がドン引きどころか、息を呑んで距離を取る。
　「………………っ」
　これが叶に起こっていた事だとしたら──意地でも、告白の手伝いだと言わない彼の姿は、涙ぐましく、そしてまさに賞賛に値した……

　そんな中、事故は起こった。
　金たらいによって、綾花と寿里の手が離れた瞬間、もう距離的に歩き過ぎ去ったと思っていた男子、宇崎宙太郎に寿里が直撃したのである。

「寿里さんっ！？」
「おおっ、これはお約束の本命外男キャラの妨害出現！！」

　綾花と碧南、それぞれ言葉は違えど心配度は同じ。
　どうやら、歩きながらのんびり購買のパンをかじっていた矢先、寿里の騒動に巻き込まれ思いっきり宙太郎は彼女を押し倒す形で倒れこんでしまっていたのである。
　頭にパンツを被ったままの正也の手には食べ掛けの購買のパンが降って来た。
　しかしどうしろというのか、むしろ手が塞がって立ち止まっているのにパンティが脱げない、またもや不憫を匂わせる悲劇勃発。

　寿里もメンタルが頑丈過ぎるが普通の女の子である。至近距離で廊下に押し倒されれば、

　カンッ！　カンカンカンッ！
　宙太郎の頭に降り注ぐフライパンや金属ボウルの雨あられ。少ないが普通のひとの目撃者もいるのに、この惨状。
「いって、何起こってんだか分からないけど、痛い痛い」
　持ち前の、のんびりとした様子で起き上がろうとする宙太郎。
　しかし、今の事態は寿里にとっては絶望にも似た感覚だった。
「わ、私には……っ。先輩だけなんだからぁ！！」
　想いを寄せる先輩以外にときめいてしまった──それを認められないかのように、寿里の力いっぱい抉りこむような右ストレートが宙太郎のボディに叩き込まれた！
　──もはや、顔面でなかった事だけが幸いだといえるだろう。

「──！？！」
　こうして宙太郎は、星になった！
　正確には吹き飛んだところを、いつの間にか現れていた大量の猫の群れが宙太郎をもちゃもちゃに、もみくちゃにしながら、何処かへと運び去ってしまった。

　──恋する乙女は怖い……！
　その共有認識を改めて再確認しながら。
　もうこれ以上立ち止まれない、と場に残った面子は再び走り出した──！

「猫の大群……羨ましいです……」
　あのもみくちゃにされる光景が羨ましい。
　ぽつりと言った綾花の一言に、周囲は一気に戦慄した──