秋刀魚食えよ！　――猫鳴館の七輪は燃えているか――｜リアクション

秋刀魚食えよ！　――猫鳴館の七輪は燃えているか――

「ちょーーーっと待つよぉい！」
　先程までサンマの丸呑みにチャレンジしていた骨削瓢がいつのまにやら飛び出してきた！　一応警戒はしていたが、どうやらサンマに埋もれて姿を隠していたらしい。
「真央ちゃんもその箱が欲しいのだーっ！」
　猫を増やそうとたくらむ真央もまた、調理用品の片づけを終わらせてもう１つの箱に手を伸ばそうとする。ちょうどお米の準備を終えた輝一が「サンマを移して、片付けておきますね」と手に取っていた分だ。真央はいつのまにかシュノーケリングとマスクを装着してサンマの海へダイブする。
「そうはさせないのじゃ！」
　といいなが動くも上手く動く事ができない。真央はどうにかこうにかあっけに取られた輝一から箱を手にすると、落ちていたビニール袋へとサンマを全て流し込んだ。
「真央ちゃんは、お猫様を増やしたいだけなのだ」
　そう宣言し、台所を離れようとする真央。そこでタイミングよくやってきたのは、真央の相棒、がおーだった。がおーは近くにいた猫数匹を連れてきてくれたようだ。
　ちなみに奈良橋博美が「誰か猫を連れてきてくれたら、一緒に食べてくれるかな」と何気なく思っていたりするが、こんな形で叶うとは誰も思わなかっただろう。
「ナイスなのだ、がおー！　さぁさぁ、お猫様に入ってもらうのだー！」
　台所を数歩出た真央はいいな達の猛攻をかいくぐり猫に箱を差し出す。と、猫たちのうち数匹はうれしそうに箱へと入っていく。入らなかった猫たちはサンマに気が向き、咥えて外へ出て行ってしまったようだ。
　それはともかく。箱に猫が入ったものの……猫が増えるけはいは無い。
「！　そ、そんなぁ～……。お猫様は増えないのだ～？」
　しょんぼりする真央の姿にいいなはなんと言ったらいいのか解らなくなるも、綾花は苦笑して箱を取り上げ、手にしていた別のビニール袋へ入れて、容器をカッターで分解する。
「この様子ですと、増えるのはサンマだけなのかもしれませんね」
「そうじゃな……」
　綾花といいなは、その状況からぽつりと呟くのだった。

　一方、瓢はというと、箱を取り戻そうとする勘三郎たちに対してにぃ、と笑う。
「人の食卓、邪魔するんじゃないよぉい！」
　とばかりにサンマを振るスイング……もとい、フルスイングしてシバきにかかってきた。これには閉口してしまう面々だが
「「食べ物で攻撃するんじゃない（しちゃだめだよ）っ！」」
　と羽生碧南と刀の叱咤する声。それにも負けず瓢は出口へと駆けていく。行きがけの駄賃とばかりに増え続けるサンマをぶっかけ、目くらましにして逃走！
「うわっぷ！？　なかなかやるじゃねぇか……」
「骨削は俺達が追う。みんなはそのサンマを頼む！！」
　諸に食らった博美がごちり、修が叫んで先頭を切って瓢を追いかけていく。博美はその後を追った。
「十分気をつけるのじゃぞーっ！」
　いいなが２人へそう叫び、台所にひとまず静寂が戻った。だが、せっかく少しは減ったサンマが再び増えているのである。
（こ、これは「ひと」に混乱を与えてはいけまセーン！　何か……考えなくては！）
　さっきの騒ぎで更に増えたサンマに、深縹露草の目が光った。
「これ以上、洗濯物を……増やさない事です」
　いきなり何のことだろう、と思ったメンバーだが、露草から醸し出される『おかんオーラ』には誰もかなわない。
「せ、洗濯物……？　サンマじゃあ……」
　気圧された勘三郎の呟きに、露草は
「ええ、増えているのは洗濯物です。サンマはあらかた調理してしまったでしょう？　洗濯物は【洗わなくてはなりません】よね」
　と、言い放った。そして、サンマと包丁を持って笑う。
「さぁ、どんどん【洗っちゃおう】ねぇ～～？　ふふふふ……はははははは！」
　露草は手早くサンマの下処理を進めていく。つまりは【サンマ】＝【洗濯物】、【調理】＝【洗う】という隠語で「フツウ」を死守しようとしているのだ。
　最初何がなんだかわからなかった面々だが、わかった者たちはとりあえず調理に、消費にいそしもうという空気となった。
　ちなみに後からもれいびであろう数名に説明する羽目となる露草だったことを付け加えておく。