【中間テスト】そんなこんなの最終日｜リアクション

【中間テスト】そんなこんなの最終日

　椿美咲紀は快調に空欄を埋めていく。表情は自信に満ち満ちて、若干、鼻息が荒い。
　そこに難問が立ちはだかった。目を瞬いた美咲紀が設問に顔を近づける。
「イギリス国教会の設立は、えっと、顎髭の生えた暴君の、あれはヘンリー八世。ここまでは合ってるわね」
　設問の続きに目を向ける。美咲紀は軽く仰け反った。天井を見たまま、不自然に身体を揺らす。
「国王の名前はわかるのにぃ、なんでお嫁さんなのよ」
　姿勢を戻して設問を食い入るように見つめた。うう、見間違いじゃないよ、と悔しそうな声を絞り出す。
「……お嫁さんの名前は、そう、直前にノートで見たじゃない。なんで思い出せないのよぉ」
　鞄を恨めしそうに睨む。手が伸びそうになるのを必死に堪えた。苛立った足が激しい貧乏揺すりを始める。
「お嫁さん、お嫁さんは女王？　違うよね、国王がいるんだから。なんだっけ、魔王だったりして。いやいや、そんなことはどうでもいいのよ」
　頭を掻き毟ってもすっきりとしない。地団太を踏む状態となった。
「教皇クレメンス七世は覚えてるのに。お嫁さんはキャサリンなのにぃ。こっちを問題にしてよぉ」
　苛立ちの頂点に立たされた美咲紀の精神は不安定に揺れている。教室に掲げられた時計で少し頭が冷えた。
「わかるところを解いていこう」
　遅れを取り戻すかのように書き殴る。最後まで解いて笑顔が零れた。残されていた問題に目を戻すと、再び苛立ちの頂に押し上げられた。
「ああ～ん、お嫁さんの名前がぁ。なんで思い出せないのよ。そんなに私のことが嫌いなの？　ねえ、答えてシャーロット」
　適当に浮かんだ名前を口にして美咲紀の目は輝いた。
「今日から、あなたの名前はシャーロットよ」
　最後の空欄に名前を書き入れた。空欄を埋めて気分が上向く。それは数分の話で欄外に『度忘れ、無念』と文字を書き添えた。