香りで癒しの一時を｜リアクション

香りで癒しの一時を

●安らぎを求めて

「……疲れたわ……月月火水木金金……休み無し……はあ……」
　寝子島総合病院勤務医の深倉理紗子は朝６時半に出勤、退勤時間は午前様。
　休みが取れても急患や受け持ち患者の容体が急変すれば病院から呼び出され、出勤ということも。
　容赦ない出勤はやむを得ないが、医者の不養生を実践してるかのような生活が日常茶飯事ともいえる。
（こんなのは嫌です！）
　自室にいると気が滅入るので、気分転換に街を歩くことに。
「携帯が鳴らないことを祈りましょう」　　
　せっかくの休みに呼び出しがないことを祈りながら、外に出ると星ヶ丘方面へ。
「懐かしい……」
　東京の富裕層出身な理紗子は、街の落ち着いた雰囲気に地元に帰ったような懐かしさを感じた。
　それと同時に兄と姉と比較され、その度に親に傷つけられたことを思い返す。
（なんで急にこんなこと思い出したのかしら……気分転換しにきたのに……）
　涙が出そうになったが、気を取り直して歩き出す。少し歩くと、どこからか微かに良い香りが漂ってきた。
「この香りは……」
　香り漂う方向に視線を向けると、そこにはハーブティーの店が。

「楽しめるといいけれど」
　最近ぼんやりしがちな英モニカは、同僚オススメのお店がどんなところか気になっている。
　疲れ気味なモニカを心配した同僚が「星ヶ丘にハーブのお店があるから行ってみたら？」と勧めた。
　香りを楽しむだけでもリラックスできる、というようなことも言っていたので、行ってみることに。
　同僚が書いたメモを頼りに、お勧めのお店を探す。
「ここね」
　星ヶ丘にあるので気後れしていたが、店の外観に親近感が湧いた。
　さっそく店内へ、というところで、理紗子がやって来た。
「あなたも、このお店に？」
「……は、はい。良い香りがしたので。わたし、深倉理紗子といいます」
「私は英モニカ、役場の商工観光課勤務の公務員よ」
「役場の方ですか。私は寝子島総合病院勤務の内科医です」
　お互い大変な仕事ね、と苦笑するモニカ。
「よかったら、私と一緒にお茶しない？　ここ、ハーブティーのお店なんですって」
　断る理由がないので、モニカの誘いに応じ、理紗子は一緒にお茶することに。
「リラックスできるハーブティーもあるそうよ。入りましょう」

「前々から気になっていたのよね、このお店。ハーブティーだけでなく、紅茶も取り扱っているようだし」
　桧垣万里は、メイド喫茶「ねこのて」で使えそうな茶葉を選定。
　良いものがあったらオーナーに頼んで買い付けてもらいたいと思いながら、どれにしようか考える。
（お店用だけでなく、自分用にもいくつか買っちゃおうっと）
　そう思うが、まずはお客様たるご主人様、お嬢様にお出しする物を優先。
（お店に出すとしたらどんなハーブがいいかしら？　ご主人様には疲労効果、お嬢様には美容効果があるものが良いわね）
　メイド喫茶に訪れるご主人様、お嬢様の年齢は様々だ。それも考慮しているので、どれが良いのか悩む。
（癒し効果となるとカモミールティーかしら？　お嬢様にはローズヒップのような美容効果の高いものが喜ばれるのかな？）
　自分で判断しかねるので、思い切って真珠に聞いてみることに。
「あの……うちのお店でハーブを取り扱いたいのですが、どのようなものが良いのかわからなくて……」
　お店がメイド喫茶であること、男性客、女性客が来ることを真珠に伝え、アドバイスしてもらうことに。

　その最中、モニカと理紗子が店に入っていた。
「いらっしゃいませ」
　話を一旦中断し、真珠は２人をお出迎え。
「ここでハーブティーが飲めるって聞いたんだけど」
「はい、できます。お店の庭園のテーブルで飲むこともできます」
「あの……お聞きしたいことがあるんですけど」
　遠慮がちに、万里はふたりにどんなハーブティーを飲んでみたいか聞いてみた。