香りで癒しの一時を｜リアクション

香りで癒しの一時を

●開店準備をしましょう

　自室でシンプルな黒のワンピースに着替え、いつもの赤いカチューシャをつけた宇井真珠は、ハーブの本とメモを持って『Herb&Tea Shop MOEGI』の開店準備をしに店舗へ。
「また、お婆様の代わりに接客することになるでしょうね……」
　店主である祖母の代わりに、孫である真珠が接客することも。
　昨日は祖母が店の仕事をしていたこともあり、忙しい時間帯以外はお店で販売できるお菓子を試作を。
　今日は朝早くに出かけたので、帰って来るまで真珠ひとり。
（多分、閉店まで帰ってこないでしょう……）
　まだハーブの効能が覚えられないのでメモを見ながらになるが、頑張って接客しようと気合を入れる。
　そんな彼女だが、クールで大人びた印象とは裏腹に恥ずかしがり屋。
　アニメ声なのが嫌なので普段の喋り方はボソボソだが、接客では気にしていられない。
「お店では声を気にしてたら接客ができません」
　気を取り直し、普通に話すよう努める。
「今日はどんなお客さんが来るか楽しみですね、バッカル」
　足元に擦り寄って来る飼い猫のバッカルコーンを抱き上げ、普通に話しかけるのは楽と気分を落ち着かせる。
　開店前に店内を清掃し、茶葉やポプリといった商品を補充したり、テーブルを拭いたりと開店準備。
「昨日作りすぎたお菓子、試食として出してみましょう」
　試食として用意したお菓子は３種類。
　好きなものを来店したお客様に食べてもらえるよう、クッキングペーパーを敷いた小さな籠の中に入れる。
「さあ、頑張りましょう」

　開店準備の様子を黒のスーツ姿、黒い杖をついた老紳士ベネディクト・カノーパスが見ていた。
　散歩中に何やら良い香りがするので辿ったところ、ＭＯＥＧＩ前に辿り着いた。
（この店で取り扱っているハーブか）
　香りの正体がわかったので、気が向いたらまた来るか、と立ち去った。
　店の前にいたベネディクトが立ち去るのを見た真珠は、まだ開店していないので帰ったお客様だと思った。
（お客様でしたら、悪いことをしたでしょうか）

　ベネディクトがお客様として来ることがあったら、お気に入りのラベンダーティーを勧めたい。
　そう思いながら、真珠は本日最初のお客様をお迎えすべく店を開けた。

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