香りで癒しの一時を｜リアクション

香りで癒しの一時を

●お勧めは何ですか？

　入るなりの突然の質問に少し面食らったモニカと理紗子。
「すいません、突然で。私のお店、喫茶店なんです。それで、どんなものをお出しすれば良いかと思いまして」
「そうだったの。そうね……」
　自分だったら……とモニカは考える。
「私は疲労回復効果があるものが良いわ。美容に良いものも捨てがたいわ」
「……わたしはリラックスできるハーブがいいです……ラベンダーとか」
　疲労回復、リラックス効果、美容に効果があるものを良い、というのは理紗子も同じだった。
「お話を聞いたところ、いろんなお客様が来るんですね。私はカモミールとラベンダーをお勧めします」
　どちらもストレスや不安、憂鬱な気分を和らげるリラックス効果がある。
　飲みやすいという理由で、真珠はカモミールを強く推す。
　ペンとメモを取り出すと、万里は一言一句逃さずアドバイスをメモ。
「もうひとつだけお勧めするとしたら美肌効果があるローズヒップですね。ビタミンＣ豊富ですから、喫煙する男性客にも良いです」
　喫煙は大量にビタミンＣを消費するので、その分を補充するのに丁度良い。
「それじゃあ、その３つにしようかな。実際に飲んでみたいんだけどいいかな？」
「はい」
　真珠、理紗子、万里達との話。
　店内にあるハーブやポプリの香りに安心したモニカは、過ごしやすそうな雰囲気を感じ取った。
「落ち着いた雰囲気のお店です……」
　理紗子はほっとした気分に。
「おふたりとも、ご意見、ありがとうございました。私、メイド喫茶店長代理の桧垣万里といいます」
「良いお茶が見つかって良かったわね。私は英モニカ。役所勤めの公務員よ」
「わたしは寝子島総合病院勤務の内科医、深倉理紗子です」
　ハーブ話で意気投合した３人は、一緒にティータイムを楽しむことに。

　天気が良いので、３人は庭園のテーブルでハーブティーを飲むことにした。
　庭園に入ると、理紗子はベンチに腰かけて植物をぼんやりと眺める。
「……綺麗」
　微かな秋風が、庭園の植物の香りとハーブの香りを運ぶ。
「この香りは……何かしら？　わからないけど、気持ちが落ち着くわ」
　外出中に傷ついた心が、穏やかに塞がっていくのを理紗子は感じた。
「私も植物のことはわからないけど、綺麗なのと、良い香りなのはわかるわ」
　隣に座っているモニカは、仕事での疲れが少し癒されたような気がした。
「綺麗ですよね。店内にポプリがありますよ。見に行きませんか？」
　万里が２人を誘うが、理紗子は植物を眺めたいと残る。

　モニカがポプリを見ている間、万里は自分用の茶葉を探す。
（大好きなアールグレイは外せないかな。もうひとつ欲しいところだけど……）
　せっかくなので、真珠オススメのブレンドに決めた。
「店員さん、頭がスッキリ冴えるようなお茶ってあるかな？」
　しばらく考え込んだ真珠が勧めたのはレモングラス。
　殺菌作用があり発熱、頭痛といった風邪の初期症状に効果的なうえ、頭が冴える効果も期待できるハーブだ。
「アイスティーにすると、より頭が冴えますよ」
「そうなんだ。じゃあ、それもいただこうかな」
「ありがとうございます」
　茶葉入りの袋を積めた紙袋に、ハーブティーの淹れ方を書いたメモを入れる。
「良い買い物ができたわ、ありがとう。良かったら、是非うちのお店にいらしてくださいね」
　メイド喫茶ですけど、とクスリと笑う万里。
（お屋敷みたいな喫茶店なんでしょうか？）
　それを聞き、真珠は店内のイメージを想像してみた。
（お客様のことをご主人様、お嬢様と言っていたので、育ちの良いお客様が来る場所なのかも……）
　そう思うと、もっと良いものを勧めたほうが良かったかも……と後悔した。

このページにイラストを設定する