香りで癒しの一時を｜リアクション

香りで癒しの一時を

●思いを香りに託し

　舞が庭園を見ると、ハーブティーを飲みながら本を読んでいる修を見かけた。
「５組の八神くんですね」
『そうみたい。ティータイムに誘う？』
　海の筆談を見た舞は、人数が多いほうが楽しいと誘うことにした。
「八神くん、ご一緒にティータイムはいかがですか？」
「私達と一緒に楽しもう」
　舞に続き、月も声をかけるが気付く気配がない。
「読書に集中しているようですね」
「そのようだな」
　邪魔をしてはいけないと、皆、修に声をかけるのをやめた。

　少し肌寒くなったので、修は店内へ。
「これは……」
　気づいたのは瓶詰めのドライポプリ。
「店員さん、これはどうやって香りを楽しむんだ？」
　レジカウンターで本を読んでいた真珠に、ポプリを指さして説明を求める。
「穴のあいたポプリポットに入れて玄関やお部屋に置いたり、ティーバックに詰め、布袋に入れたサシェにしてドアノブにぶら下げたり、ハンガーに吊るしたり、ですね」
「犬猫を入れない部屋に置いたりするんだけど、時々、香りを楽しませたいんだ。大丈夫かな？」
　万一、飼っている犬猫がハーブを口にして体調を崩してしまっては大変だ。そうなる前に、知識を得る必要がある。
「猫が食べる猫草、というのがありますよね」
「グルーミングで飲みこんでしまった毛を毛玉として体内から排出する草か。ハーブと何の関係が？」
「レモングラスというハーブは、消化促進作用の効能もありますので猫草の代わりに使えるんです」
　そう言った後、人間にとって薬にもなるハーブだが猫にとって毒になるハーブがある、犬に与えてはいけないハーブを真珠は教えてくれた。
「詳しいんだな」
「私も猫を飼っているので勉強したんです。大事なお友達を危ない目に遭わせたくないので……」
「庭園にもハーブが植えてあったから、犬猫は連れてこないほうが良さそうだ。匂いを嗅ぐのは大丈夫か？」
「そうですね……種類によって好きな香りと嫌いな香りがありますので、飼っている動物次第としか……」
　まだまだまだ勉強中なので、詳しく教えることができずにすみません……と真珠は申し訳なさそうに謝った。
「いや、参考になった。教えてくれてありがとう。ポプリはサシェにして、猫が手出しできない場所に吊るしておくよ」
　もっとお客様の役に立ちたい。修との会話で、その気持ちが強くなる真珠だった。
　修が買っていったポプリはレモンハーブは即決。
　他に何にしようか迷ったので、真珠にアドバイスしてもらいながらいろいろ香りを楽しみながら選んだ。
　選んでもらったのは、店で飲んだカモミール。ハーブティーは犬に与えても良いと聞き、これに決めた。
「ローズマリーもいかがですか？　精神疲労の緩和、集中力アップと記憶力が高まる効能があるんですよ」
　集中して勉強していたことを見ていたので、真珠はこれも勧める。
「じゃあ、それも」

　その頃、星ヶ丘寮では舞主催のティータイムの準備中。
　冬華がティーカップ等の準備をしている間、舞はハーブティーを淹れる陶磁器のポットを温めている。
　外出疲れの月は休憩中。
　海は真珠がくれたクロッカンと舞が用意したお菓子だけでは足りそうにないと買い出しに。
　買い出しを終え、星ヶ丘寮に戻る時に帰宅途中の修に会った。
『八神くん、ＭＯＥＧＩにいたよね。私達が声かけたの気付かなかった？』
「すまない、勉強に集中していて」
『舞ちゃんのところでティータイムするんだけど来ない？』
「いいのか？」
　舞が誘おうとしたが、勉強に集中しているようなのでやめたことを聞き、気付かなかったお詫びとして誘いに応じる。
　買い出しから戻った海と一緒にいる修を見て、舞は「ようこそ」と部屋に招き入れた。
「誘ってくれたことに気付かずにすまない。今からでも大丈夫か？」
「ええ。さあ、どうぞ」