猫好き集まれ！　キュートなにくきゅうスタンプラリー開催！｜リアクション

猫好き集まれ！　キュートなにくきゅうスタンプラリー開催！

【他人から見ると？】

　桜花寮の前で自転車を止めた時、八神の目はその二人を捉えた。銀髪の女性と、黒い髪の男性。
スタンプラリーの参加者らしく、二人とも首からカードをさげ、猫を抱き上げて楽しそうに笑っている。
カップルだろうか？

「……いいなぁ」

　八神は腕組みをして考え込んだ。もし、あの二人が自分と『あの子』だったらどうだろう、と想像してみる。
（あの子は動物とか好きかな……ウチには猫と犬とハムスターもウサギもリスもいるし、守備範囲は広いと思うんだけど）

「八神君、八神君！」
「ご、ごめん恵御納。で、なんだっけ？」
「ここのポイントでスタンプを押せば、コンプリートになるね、って話をしてたの」
　事前調査と自転車の機動力で、順調にことを進めてきた八神と恵御納。１３時の時点で、スタンプは５つになっていた。賞品の海鮮グルメのことを考えて、昼食はネコンビニのパンで軽く済ませてある。

「あのお兄さん達のこと見てたの？」
　自分のスタンプカードの空欄を指していた恵御納の指が、彼らのカードに肉球スタンプを押している
男女に向く。

「いや、別に……」
　目をそらす八神の前に、恵御納の顔がにゅっ、と出現する。ニヤリと口の端を上げたそれが。

「好きな人のこと考えてたでしょ、八神君」
「そっ、そそそそそんな事はない！」
　話の矛先をそらそうと、八神はパトラの姿を探したが――いない。

「恵御納、パトラ知らないか？」
「そう言えば……自転車止めて、八神君がおろしてから、どこ行っちゃったのかな」
　辺りを見回すが、少なくとも目に見える範囲にパトラはいない。

「おーい、パトラー！」
「パトラちゃん、どこ？」

　二人で声をあげると、寮の脇に入る細い通路から『にゃーん』と鳴き声が聞こえた。
　声を頼りに行ってみると、通路の入口でパトラが別の子猫とじゃれあっている。藍染のバンダナを巻いた
茶トラの猫と、上になり下になり、猫パンチをくり出し、まさにキャットファイトだ。
　そんな二匹の横には、ゴシックロリータファッションに身を包んだ少女――桜庭がしゃがんでいる。

「パトラ、人様んちの子になにやってんだ！　オヤツやるからこっち来い」
　バンダナをしているということは相手は飼い猫だろうと辺りをつけ、かつお節の袋でガサガサ音を立てると、
パトラはすぐさま飛んできた。口元にかつお節を持っていき、食べたのを確認すると、桜庭に頭を下げた。

「すみません、うちのパトラがご迷惑を」
「いえいえ。うちのにゃーくんの方が先にちょっかい出しちゃって」
　桜庭の笑顔に、怒っているわけではなさそうだ、と八神は一息ついた。

「きれいな猫ちゃんですね。女の子ですか？」
「はい、そうなんです。そちらは？」
「男の子ですよ。にゃーくんたら、可愛い子とお近づきになりたかったのかな」
「しょうがないですよ、パトラちゃん可愛いものね」
　桜庭と恵御納からの賛辞。家族を可愛いと言われて嬉しくない筈がない。八神は口元がゆるむのを
止められなかった。

「檜山さん、これで三つめのスタンプですね！　……どうかしましたか？」
「あぁ。あの少年はモテモテだなーと思いまして」
　氷華の声に振り向き、檜山は女子二人に挟まれた八神を指差した。
　スタンプを押し終え、次なる猫に前足を貸してもらおうと探し歩いている途中、キャッキャと盛り上がって
いる三人組が目に入ったのだ。

「本当だ。両手に花で、口元がゆるんじゃってますね」
「同じ男として実に羨ましいな」
「二人の女の子、さっきからかわいいかわいいって連呼してますけど、男の人でも可愛いって言われて
喜ぶんですか？」
「嬉しくはないはずだけど……まぁ、女の子二人にキャーキャー言われるのは嬉しいかもしれません」
　氷華の問いに苦笑しつつ、檜山はそう評した。
　遠くから、会話の内容が聞こえない状態で八神たち三人を見ると『男子一人が女子二人に騒がれている』
ように見えてしまうらしい。
　氷華と檜山は、まさか『猫って可愛いよね談義』で盛り上がっているとは夢にも思わなかっただろう。

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