秋の夜、満天の星の下で｜リアクション

秋の夜、満天の星の下で

●ミッドナイトウォーク
　中学校にあがって初めて迎える秋。
　時高クレオは、今までできなかったことを何か、してみたいと願っていた。
　そんな折、クラスの友だちからメールが届く。
「クレオ、見てみて！　今日とっても星がよく見えるよ！」
　メールに添えられた写真は若干ブレていたが、普段より多くの星たちが映っているのがなんとなくわかった。「いいな～！　クレオも……じゃなかった、私も見たいな」
　もう中学生なんだから、子どもっぽい言い方は直さなきゃ。
　そう自覚しつつも、興奮した時のクレオは時々自分のことを自分の名前で呼んでしまう。
　窓から外を覗く。が、屋根のひさしが邪魔をしていて星空はよく見えない。
　あまり親の言いつけを破らないクレオだったが、今晩ばかりは好奇心を押さえ切れなかった。
「ちょっと出かけてくるね！」
　外出の格好をしているクレオに気づき、母親がどこへ行くのかと問いかけてくる。
「学校の宿題で星空のスケッチをしてこいって言われてるの。遅くならないうちに戻るから」
　手に持ったスケッチブックと筆記用具を見せると、クレオの母はしぶしぶ外出を認めてくれた。

　星がもっと綺麗に見える場所へ。
　ある程度街の灯かりから離れた方がよく見えるだろうけれど、今回の行き先は近所の公園にするつもりだった。
　たとえ近所でも、めったに夜間に外出しないクレオにとっては大冒険だ。
　星空を眺める楽しみは後にとっておきたくて、今は空を見ずうつむきがちに歩く。

　公園近くの十字路で、飛び出してきた赤い髪の少女に軽くぶつかった。
「きゃあ！」
「わわっ……！」
　たがいに前をよく見ていなかったらしく、少女――御薗井Ｅセレッソは大慌てであやまってきた。
「スクーズィ、ごめんなさい！　星空があんまりキレーで、ちゃんと前見てなかったノ……」
　上を見ずに歩いていたクレオとは対照的に、彼女は上ばかり見て歩いていたらしい。
　クレオのトートバッグからスケッチブックがはみ出しているのを見て、セレッソが何かに勘付いた。
「もしかして、あなたも星空を見に？」
「うん、そうだけど……あなたもってことは、あなたも？」
　問い返すと、セレッソがうなずいた。どうやら同志だったらしい。
「じゃあ、一緒に行きませんか？　私、このへんでよく見える場所を探してたんだけど、一人で夜歩きするのは心細くって」
　そう提案すると、セレッソは喜んで飛び跳ねた。
「もちろんナノ！　仲間ゲットナノ！　よろしくネ、えーと」
　そこまで言って名前を名乗ってなかったことに気づく。
「クレオ、です。時高クレオ、っていいます」
「ワタシのことはセレッソって呼んでほしいノ！」
　握手を求め手を差し出すと、セレッソからも満面の笑顔が返ってきた。
　帰りの門限は守らないといけないし、普段なら近所だけで終わらせただろう。
　けれど、この人と一緒なら少しくらい予定を変えて遠出をしてもいいかなと、クレオはおぼろげに考えていた。