秋の夜、満天の星の下で｜リアクション

秋の夜、満天の星の下で

●極地からの絵葉書
　参道商店街、あまもり質店の二階。
　学校から帰ってきた御薗井Ｅセレッソは、スツールの上に置かれた絵葉書に気づく。
「ワタシにお便り？　どなたからかしら？」
　ぺらりと裏返すと、見覚えのある筆跡で宛名が書かれていた。
　達筆で書き崩された文字、日本語の宛名の横にはイタリア語で「わが娘セレッソへ」との言葉。
　メッセージを読むまでもなく、手紙の送り主がわかった。
「パーパだ！　パーパからのお手紙なのネ！」
　めったに返事をくれない養父からの手紙に、ぽんぽんとその場ではねる。

　　――セレッソ、元気にしているか？
　　　　今私はアラスカにいて、イヌピアトたちの話を聞いている。
　　　　一通り取材を終えたら、これをまた絵本用に翻訳するつもりだ。
　　　　こっちは星がとてもキレイだぞ。くれぐれも健康に気を付けてな――

　読み終え、絵葉書をテーブルにゆっくりと伏せる。
「相変わらずパーパの手紙は短いノ！　ワタシはいっぱいお手紙送ってるのにネ」
　手紙を送ってもあまり返さないセレッソの父らしい、あっさりした文面だった。
「ワタシもお返事書くノ！　パーパに日本での暮らしを自慢しちゃうんだから！」
　興奮気味にそう息巻く。
　アラスカではオーロラが見えるというが、日本の夜だって負けてはいないはずだ。

　その晩、普段なら寝ている時刻になっても、セレッソの部屋の明かりは消えなかった。
　久しぶりの父からの手紙。
　予想外のできごとが嬉しすぎて、興奮が眠気に勝ってしまったらしい。
「明日はお休みだし、ちょっとだけ夜更かししても大丈夫よネ……？」
　階下の様子をうかがってみる。今ならおとがめなく抜け出せそうだ。
「星がキレーだし、お散歩に行くなら今しかないノ！」
　家を抜け出したセレッソは、楽しそうに空を眺めながら歩く。
　街灯の明かりに紛れて星たちの光がゆらゆらと、頭のはるか上でゆれている。
「上を向いて歩いてると飽きがこないノ！　あれれ、でもちょっと首が痛くなってきちゃったノー……」
　そういいながらも、首を左右交互に傾げながらふらふらと歩く。
　星空に夢中なセレッソは、別の方角から人が近づいていることに気づいていなかった。

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