沈黙の恋人たち｜リアクション

沈黙の恋人たち

　最後の落暉が、梢をきらめかせた。
　重い疲労と、充実感が、皆の体にみなぎっていた。
　明日のテストは、思い切りやれそうだ。
　
「あ、あ……」雅人のアホ毛が萎れる。
　喫茶コーナーで休憩しようとした３人。
　琥珀色のカフェオレの甘い香りを愉しむ小淋の傍らで、雅人が肩を落としていた。
　
　雅人が颯爽と押した自動販売機。
　点灯するランプは『ブラック』である。
「……間違えてブラック買っちゃった……」
　窓が開き、淹れたてのコーヒーが香り立つ。
　爽やかなブラックの香気。しかし雅人は飲めない。
　
　しゅんとする彼に、百円玉が手渡される。
「俺ブラック派だから」刀がカップを取り出す。「買うぞ？」
　ニッコリ笑って礼を言い、雅人は改めてボタンを押す。今度は間違えない。
　砂糖入りのコーヒーを手にして、ニンマリ笑う。
　その彼に、刀がブラックのコーヒーを差し出した。
　
　心得たように、コーヒーカップを翳す雅人。
　
　互いの健闘をたたえあう、それは乾杯だった。
　
　苦渋に満ちた戦いだった。
　彼らにとって不利な戦いだった。
　それでも彼らは雄々しく、引くことなく戦った。
　結果などどうでもよいではないか。
　今はただ、戦いの余韻に身を委ね、ともあれ挫けず戦った互いを讃え合う。
　戦士たちには、つかの間の休息を……。
　
『残り時間も頑張りましょう、お二人とも』

　ニッコリ笑って、小淋がスケッチブックを翳す。
　そう、明日も試験は残っているのだ。
　
「うへっ、まだやるのか……」現実に引き戻される二人。悄然と肩を落とし、自習室に戻る。
「頑張りまーす」