沈黙の恋人たち｜リアクション

沈黙の恋人たち

　暮れ方の図書館は、朱金の光に満たされていた。
　図書館のこの一角は、大正モダニズムの影響を強く残しており、窓枠が十字に影を作る。
　踊り場で、振り仰いだ小淋の貌が、稠密な陰翳を作った。

　　
　いくつもの書棚が林立する、書架。
　大小、新旧さまざまな書物が収められるそこは、一見すると無秩序な空間だ。
　小淋は彷徨うように歩みながら、本に秩序を与える。
　分類し、あるべきところに設置する。
　無理に撓めて仕舞われた本は、空間を確保する。
　栞をしまい、歪められた本は揃えなおす。
　順調に刊行を続けている、マイナーな個人全集が漸く充実し始めたのを見て、こっそりほくそ笑む。
　天窓の光が、緩やかな埃の流動を透過し、キラキラと光らせる。
　静謐の中で、安らかな充実の時間が過ぎた。

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