沈黙の恋人たち｜リアクション

沈黙の恋人たち

　多目的ルームは盛況。倫理子にテーブルを指示し、自分も彼女を確認できる場所に座る。

　人数の多い『ももたろう』は自分。彼女にはもう少し楽なものやってもらおう。
　
　水樹はじーっと子供たちを見る。
　触角みたいな髪の子。チャイナ服の女の子。
　みんな、固唾をのみこちらを見ている。
　ちらりと倫理子を気にして、水樹は笑顔を向けた。「みんな、元気かな？」

　……。

「あるところにかわいそうな女の子がいました……」

　倫理子は紙芝居を読み始める。

　シンデレラ。白雪姫。おとぎ話のハッピーエンドは、王子様と結ばれるものばかり。
　かぐや姫は月に帰るし、マッチ売りの少女はハッピーじゃない。
　この物語の最後も知っている。不幸、苦難を乗り越え、最後はハッピーエンドになる。
　彼女の表情は笑顔に彩られる。「いつまでも、いつまでも、しあわせにくらす」。
　でも、自分は……。

「こうして女の子は、いつまでもいつまでも、しあわせにくらしましたとさ……」

　そう倫理子が読んだ瞬間、沈黙が降りた。
　不信に思った彼女が顔を上げると、雷鳴のごとき拍手が巻き起こった。

「すごい、すごいー！」
「女の子が、本当にかわいそうだった！」
「本当に、幸せになってほしいって思った！」
「びっくりしたー！　お姉ちゃんが読んだの、ぜんぜん違う！」

　彼女自身の表現力、繊細さのたまものだろう。
　知らず知らず物語に没入し、感情をこめて読んでいた。
　

「幸せになって、よかったねー！」
　誰かが声を掛けるのに、倫理子は笑顔を返す。
　内心の痛みを隠して。

（意外と、筋がいいみたい）水樹は安心した。
　さあ、ここからはこっちの番だ。