悠久の時の彼方へ～オルレアンの少女｜リアクション

悠久の時の彼方へ～オルレアンの少女

「ジル・ド・レ将軍と共闘できるなんて、夢みたいです！」
　ジャン・ド・デュノワが援軍を出す決断をした直後のことである。築地哲の仲立ちでジル・ド・レとその指揮下の兵を借りることが出来たクルジッカ・ヘルマゴルは大はしゃぎだった。
「私など、将としてはまだまだだよ」
　ジル・ド・レは優しげに笑う。
（この紳士的な人が、どう間違ったら「青ひげ」のモデルになるんでしょうか？ま、この際問題ではありません）
「戦いにあたって、最も警戒すべきはイングランド長弓兵です。フランスが何度も煮え湯を飲まされた敵を攻略するのはとても重要だと思うんです」
　そこで、クルジッカが提案したのが、少数の精鋭部隊が長弓兵の背後から奇襲する、というものだった。奇襲の段取りをジル・ド・レと確認したあと、クルジッカは最低限の装備で、単独で部隊を離れる。
　物陰に隠れ、奇襲部隊の様子を伺うクルジッカ。ジル・ド・レ隊が攻撃を仕掛け、敵の目がひきつけられた瞬間、クルジッカは杖を持ち、呪文を唱えた。
「クルクルマジック！」
　それと同時に、ろっこん〈魔女の見えざる手〉が発動する。イングランド軍の小隊長は、突如見えない手に鎧をつかまれ、空中に持ち上げられ、すぐさま落とされた。
「ま、魔女の仕業だ！」
　派手な超常現象を見せつけられ、敵兵は動揺し、浮き足立った。統率は崩れ、前後からの攻撃を受けた長弓隊は散り散りになった。クルジッカはそっとガッツポーズをする。
「やりました！」

「イングランドには、勇者はいないのか？」
　鷹城空は敵兵を挑発していた。盾と槍を持っている空は、リーチと防御の点で守りの面は堅実だ。しかし、武芸の腕前を考えると、攻撃面では不利。そこで、挑発したり、名乗りを上げたり、槍で攻撃してみせたりして敵の注意をそらし、ろっこんを発動する戦法を取ることにした。
「神の使いはジャンヌだけではない！このクウ・タカシロの秘術、喰らうがいい！」
「小娘が何を言ってやがる！」
　果たして、一人の歩兵が空の挑発に乗ってしまった。すかさず、空は強く念じる。
「これが神の裁きだ！イエローデビル！」
　その瞬間、歩兵の進路にバナナの皮が召喚される。足元をお留守にしていた歩兵は派手に転んだ。敵にとどめを刺すのは怖いので、後は味方に任せる。
「なんだ、この妖術は……？」
　転ばされた兵士はひどく不気味がっている。中世のイングランド人がバナナなど知るわけがないから当然である。

「この戦術は有効だな。よし、最も危険であろうジャンヌの護衛に回ろう！」
　空は、敵兵の動きを予測しつつ、ばれない程度にバナナの皮を次々設置していく。
小隊長クラスと思しき騎兵が、空の罠にかかって馬ごと転んだ。
「このクウ・タカシロの力を見たか！　フランスはわたしが守る！」
　歴史に名を刻むために、自分の名前をアピールする。中世に持ってきてしまったスマホで、それらしい音楽を流しつつかっこよくポーズを決めるのも忘れない。目指すは、ジャンヌと同じ神の使徒だ。
「ふっ、この私がいなければ、突破されていただろう。命拾いしたな」
　騎兵からの攻撃を免れたジャンヌに、空は胸を張りながら言った。