悠久の時の彼方へ～オルレアンの少女｜リアクション

悠久の時の彼方へ～オルレアンの少女

Huit.

「今直接戦ってるのは実質的にジャンヌの部隊のみ……よく持ちこたえてるな」
　フィーナ・シレンツィオが呟いた。ジャン・ド・デュノワと説得班の面々は、フランス軍総司令官のいる陣地から戦場の様子を伺っている。
「だが、敵軍は圧倒的に数に勝る。いつまで持つかはわからないね」
　桜崎巴が状況を分析した。一同はデュノワの顔を見るが、彼は黙ったまま、戦況を注視している。
「デュノワ伯爵、もう時間がないよぉ」
　話を切り出したのは、壬生由貴奈だ。
「うちも異邦の人間でね、神託を授けに来たよ。信じないなら勝手だけど……オルレアンはパリのすぐ手前、事実上の戦略的要所。ここを落とされれば、神託を受けたジャンヌは討ち死に、それだけでなく、戦を放棄した伯爵の首も危ないかもねぇ」
　デュノワは黙っている。何を信じるべきか、何に従うべきかを見極めようとしている目だった。
「これは『勝てる戦』だよぉ。勇往邁進する小娘を疎ましく思って増援を渋ってるなら、そんなプライド捨てて犬に食わせちゃいなよ。
　……デュノワ伯爵は聡明であると異母兄さんのオルレアン公から聞いてたけど、果たしてどうなのかな、ねえ？」
「……」
　デュノワの心は、まだ読めない。この男にはどういう言葉が響くのか。由貴奈は慎重に言葉を選びながら続けた。
「この戦いの趨勢を決めるのは、伯爵の一時の『感情やプライド』じゃない。『合理性』だよ。救える兵士を見殺しにするのも、勝てる戦を放棄するのも『不合理』な決断なんだから」
　デュノワは答えず、座を沈黙が支配した。手詰まりか？誰もがそう感じたとき―――
「合理性、か」
　デュノワが呟いた。
「寡兵で奮戦するジャンヌの働きは、疑念を晴らすには十分と判断できよう。そして、ジャンヌに加勢する奇妙な者たちがここに集ったという事実。ジャンヌが起こすという奇跡とは、このことなのかもしれぬ―――」
　デュノワは、おもむろに立ち上がった。
「我が手で、奇跡の手助けをしよう。これは、自分の目で見たこと、聞いたことすべてを総合した、私なりの『合理的』な判断だ。
　―――これより全軍に、総攻撃を命じる！」